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◆“Trompe-I’ œil”(トロンプルイユ)2024 苺だけど苺じゃない苺のデザート

 「あ!」っと驚かされるのは、「“Trompe-I’ œil”(トロンプルイユ)2024 苺だけど苺じゃない苺のデザート」です。

 トロンプルイユとは、フランス語でだまし絵のこと。本物のイチゴのなかに、イチゴの形をしたソルティーライチ味のゼリーや、スミレの琥珀糖(本物のイチゴのへたつき!)が交じって絵画のように美しくあしらわれています。そして、赤いイチゴはミルクのジュレで覆って白いイチゴに、白いイチゴは赤いジュレをかけて赤いイチゴに。確かにイチゴだけど、イチゴじゃない!

 「視覚からの情報と脳内の記憶の混乱を狙ったひと品です」と、森さん。「イチゴのパフェやグラスデザートはもうやり尽くして、アイデアが煮詰まったときに生まれたのが、トロンプルイユ。みんながイチゴをイメージし、その味を求めて訪れることを逆手に取って、その先入観や固定概念を裏切ってやろうということから誕生しました」。

 器の中にはハイビスカスのパルフェ、エルダーフラワーのジュレ、イチゴ、スミレのリキュールに漬けたクランベリーのコンフィ、シナモン風味のクランブル、フィヤンティーヌ、ミルクのソルベが層に。クランブルと砂糖、カカオバターを和えて冷凍したザクザクの「クランブルシート」と、パリッとした薄いチョコレートが、食感のアクセントとなっています。そして、上にさまざまなイチゴ(とイチゴじゃないもの)をのせ、フローラルな香りのイチゴのソースと赤紫蘇ジュースの泡、エディブルフラワーを。イチゴの甘酸っぱさと花の香りがめくるめく花開き、夢の世界へ引き込まれていくようです。

 「グラスもデザートによってふさわしいものを選び、そのグラスでなくては味わえない味や表現方法を楽しんでもらいたいと思っています。味わいに意外性は求めず、昔からおいしいと思うものをシンプルに。今回使ったふきのとうが、味の挑戦としては僕にとっては限界だと思っています」と、森さん。

 フルーツを盛り付ける際の極意は、「その都度、それぞれの素材に向き合って、形や色、かたさといった特徴を生かして躍動感を生み出すこと」。「プリマヴェーラ」のイチゴも、適正を見極めて輪切り、薄切り、半割りと切り方を変え、大小を組み合わせて1枚1枚花びらのように配するという手の込みよう。ストーリーのようにていねいに紡ぎ出される繊細な美しさと味わいに、心が震えます。

ラトリエ ア マ ファソン

所在地 東京都世田谷区上野毛1-26-14
電話番号 非公開
営業時間 10:15~15:00
定休日 不定

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