ガストロノミー界のコンサルタントとして世界を舞台に活躍し、今年の夏・秋には、長野県・軽井沢の「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」で、スペシャルなデザートを提供した、パティシエの長江桂子さん。

 学生時代は弁護士を志していたという彼女が、留学したパリで菓子の世界に足を踏み入れ、パリの三ツ星レストランのシェフ・パティシエを務めるまでの才能をいかに開花させていったのか。

 輝くような笑顔とともに力強く、しなやかに歩む長江さんの生き方と哲学に迫ります。


弁護士を目指していたはずが、パリで才能が開花

 パティシエ、長江桂子さんの仕事は、コンサルタント。

 パリを拠点に、お菓子のブランドやお店の立ち上げ、メニュー開発、技術指導、新商品テスト、ガストロノミーイベントなど、幅広い仕事で忙しく世界を飛び回る毎日を送ります。

 軽やかさと繊細さのなかにも、素材の魅力を力強く引き出し、心揺さぶる印象的な味わいに仕上げる彼女のデザートは、一流の料理人やパティシエを含む多くの人々から高い評価を得ています。

 実際に顔を合わせてみると、キラキラと輝くようなエネルギーにあふれていて、話しぶりは明るくて茶目っ気がありつつ、実に明確で理知的。

 「実は、大学時代は弁護士を目指していたんです」と、長江さん。フランス語を学ぶためにパリへ留学し、帰国前にまったく違うことをやってみようと、ル・コルドン・ブルーの製菓コースへ。修了後すぐに帰国するつもりが、指導する教授に勧められてパリの「ラデュレ」で3カ月研修することとなり、期間終了後も「このまま残らないか」と言われて働くことに。お菓子の道へのスタートは、偶然とも言うべきものだったといいます。

 そもそも、食好きのご両親の影響もあって子どもの頃からレストランに行く機会も多く、食に親しんでいたものの、自分でお菓子をつくったり、料理を作ったりすることが特別に好きというわけではなかったという長江さん。

 にもかかわらず、ラデュレでお菓子の仕事をおもしろいと思えたのは、「自分の進歩が見える仕事だったから」と、語ります。

 「毎日、大量のクロワッサンを巻く、パン・オ・ショコラを巻くというようなルーティンの仕事があって、繰り返しやることで自分の技術がのびていくのを実感できたんです。ただやるだけじゃなくて、10個を何秒で巻けるか、そのうち何個の仕上がりが輝いて見えるか、ということをゲームのように楽しみながら、自分ひとりで挑戦したり、同僚と競い合ったりして。性格的に体育会系なんですよ、私」と、屈託なく笑う長江さん。

 パティシエのように手に職をつける仕事は、反復しなければ自分の身にならないし、自分に厳しく目をむけていないと成長しないというのは、今も変わらない彼女の信念です。

2023.12.21(木)
文=瀬戸理恵子
撮影=志水 隆