この記事の連載
リゾナーレトマム【前篇】
リゾナーレトマム【後篇】

北海道・トマムの夏の風物詩、雲海。その絶景を望む星野リゾート トマムの「雲海テラス」は、今年20周年を迎えました。その立役者・雲海仙人が語る雲海の魅力、ふわもこスイーツが話題のカフェ、雲のモチーフに囲まれた客室まで、ファンタジックでユニークな雲の世界へ出かけてみませんか。
スキー場の整備士が「雲海仙人」になるまで
星野リゾート トマムが運営する「雲海(うんかい)テラス」は、トマム山の頂上に近い標高1,088メートルに位置する展望施設。気象条件が整った夏の朝は、幻想的な雲海を間近で眺めるチャンスが高まります。(2025年の営業は10月14日まで)

昨年までの累計来場者数は178万人超。今年も国内外から多くの観光客が訪れ、国内屈指のスキーリゾート・トマムに夏のにぎわいをもたらしています。
そんな雲海テラスの立ち上げに携わり、“雲海仙人”の愛称で親しまれているスタッフ・鈴木和仁さんに、施設の歩みとその魅力について聞きました。

――鈴木さんは、星野リゾートが参入する以前から、トマム山のスキー場のスタッフだったそうですね。
鈴木さん 1989年から、索道(ゴンドラやリフト)の運行・整備に携わってきました。雲海は朝の楽しみのひとつでお客様にも見せられたらと思っていましたが、当時は現場のアイデアを活かせる仕組みがなくて。
2004年にスキー場の運営が星野リゾートに移ったときは、正直に言うと若いスタッフの中でやっていけるのか心配でした。でも、トマムの魅力を話し合う会議で雲海のことを話したら、思った以上に興味を持ってくれて。2005年に、「雲海テラス」の前身となる早朝カフェ「山のテラス」の営業をスタートしたんです。
――当時はどのような施設だったのですか?
鈴木さん 今のような建物はなく、砂利道にテーブルと椅子を並べた簡易的なスペースで、朝6時から軽食や飲みものを提供しました。スタッフは普段ゴンドラの整備をしている私たちですから行き届いたサービスとは言えませんでしたが、早朝にも関わらず続々とお客様が来てくれて、嬉しかったですね。

――お客様の反応は?
鈴木さん 思った以上でした。一面に広がる雲海に歓声を上げて楽しんでくれましたし、雲海が出ない日も、トマムの雄大な風景を満喫していただいたという手応えを感じました。ちなみに、その年の来場者数は、2ヶ月間で909人でした。
翌2006年は、自分たちでウッドデッキを作り、名前も「雲海テラス」に。朝5時からの営業で、1万人以上のお客さんが来てくれました。それからは毎年、右肩上がりで来場者数が増えていきました。

経験則と気象情報から雲海の出る確率を予想
――今では、翌朝発生する雲海の種類や発生確率の「雲海予報」を、トマムコンシェルジュ(星野リゾート トマムの総合案内サイト)で確認できます。こうした予報は、早い段階から出していたのですか?
鈴木さん はい。現在の雲海予報は日本気象協会が監修していますが、当初は私たちがこれまでの経験と気象情報をもとに予測を立て、「雲海仙人の雲海予報」を出していました。各ホテルにFAXを流し、フロントに「明日の雲海発生率は◯%」と書いたパネルを出してもらうというアナログな方法ですけれど(笑)。雲海仙人と呼ばれるようになったのも、そのあたりからだったと思います。
2010年からは、北海道大学大学院・環境科学院の先生たちが、ここで雲海の発生や降雪・積雪に関わる気象条件を観測しています。遭難や雪崩事故などを防ぐための山岳気象観測の一貫ですが、お陰で私たちも雲海の種類や発生のメカニズムが分かるようになり、お客様にもよりご案内しやすくなりました。
雲海テラスが雲の中に入ってしまっても、突然視界が開けてダイナミックな雲海になることもあるので、現地で聞いてもらえば「もう少し待てば雲海が出てきそうです」といったご案内はしています。100%とは言えませんけれど(笑)。

――シーズン中、雲海の出る確率はどれくらいなのでしょう。
鈴木さん 平均すると4割くらいですね。6、7、8月の発生率が高いと言われていますが、9月によく出ることもあり、その年によってまちまちです。雲海テラスで見られる雲海のうち「トマム産雲海」は太陽が昇ると消えていってしまうのですが、「太平洋産雲海」は9時ごろまで見られることもあります。


ダイナミックな雲海をとことん楽しんで
――個人的にお気に入りの雲海はありますか?
鈴木さん 2つあります。ひとつは私も数えるほどしか見たことがないのですが、トマム産雲海が出ているところに、あとから太平洋産雲海が上からかぶさってくるケース。日々異なる表情を見せてくれる雲海のなかでも、とりわけ劇的で神秘的です。
もうひとつは太平洋産雲海なのですが、一面に雲海が広がっているところに太陽が昇ってくると、雲海が赤く染まって息を呑むほど美しい。これは月に1回くらいの割合で見られるので、ぜひお客様にも見ていただきたいですね。
――最後に、今シーズンの見どころを教えてください。
鈴木さん 雲海テラスでは、山の上からの絶景を楽しみ尽くしていただけるよう、9つの個性豊かな展望スポットを設置する「Cloud9(クラウドナイン)計画」が進行中です。今年7月7日には、その第7弾となる新たな展望スポット「Cloud Round(クラウドラウンド)」がオープンしました。雲海テラスの開業20周年記念の限定企画も用意しておりますので、ぜひ遊びに来てください。

2025.07.17(木)
文=伊藤由起
写真=志水 隆
写真協力=星野リゾート トマム