この記事の連載

 土曜日の深夜23時から生配信サービス「TwitCasting」で放送中の大人気怪談語りチャンネル『禍話(まがばなし)』。来年にはついに放送開始10周年を迎える同チャンネルで語られた怪談は、書籍化やドラマ化も果たしています。

 今回はそんな禍話から、ある女子大生がバイト先の古旅館で垣間見た奇妙な“しきたり”と、それがもたらす恐ろしい因果についてのお話をご紹介します――。(前後篇の後篇)

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いつからこの作業を普通のことだと思っているのだろう?

 旅館でのバイト生活が2カ月を超えた頃、大学に通い始めたばかりの1年生だという新人のOさんが入ってきました。

 家計が苦しく、大好きなおばあちゃんの介護費用を賄うために常連さんだった親族の紹介でこのバイトを知り応募してきたのだとか。

 当初は自分の動機がチンケに思えて先輩面をするのが申し訳なく思えたAさんでしたが、実直でどこか抜けているOさんの性格に触れているうちに、自然と良好な関係を築けたそうです。

◆◆◆

 その日、旅館には女将さんの姿がありませんでした。

 先輩曰く「あれは体調不良ではなく、前から入れ込んでいる常連のお客さんと遊びに行ったんだろう」とのこと。

 良いご身分だなとため息をしたのもつかの間、こんな日に限って当日予約が立て続けに入ってしまいました。

「Aさん離れの配膳!」

 ドタバタとしているうちに迫ってきた例の配膳時間。話してはいなかったものの、Oさんはこの奇妙なルールのことをとっくに認識していたようで、Aさんは彼女が知っていたことに驚くよりも先に、この孫の手も借りたい状況を打破することで精一杯だったそうです。

「私やりますよ! 持っていってマニュアルのセリフ言えばいいんですよね?」

 Aさんはそんな後輩の申し出を受け入れ、彼女に離れへの配膳を任せたのです。

 人に任せていいのか迷ったそうですが、女将さんは遊んでお休みだしこれくらい融通きかせてもいいだろう、そう判断したのでした。

 しばらくしてOさんは戻ってきました。

「ありがとー。問題なかった?」

「はい」

2025.08.09(土)
文=むくろ幽介