
ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第14回。「通の道」を突っ走る澤部さんが育った環境が気になって、特別にお母様について書いていただきました。
高校生の頃、日記(ブログ)に母のことを書いたら年上の友人から「マザコンみたいに思われるよ、自重なさい」と忠告されたことがあった。マザコンかどうかはさておき、担当編集のBさんから母の話を読みたい、というリクエストがあったので、ちょっと書いてみようと思います。
誰もがそうだと思いますが、私も両親からは多分に影響を受けていて、父からは山口百恵さんや南沙織さんといった歌謡曲の影響を受けたけれども、文化的な側面でいうならば母の影響が強い。でも、強いというより、「趣味が合う」と言った方がいいのだろうか。単純に母が読んでいた漫画を読み、母が持っていたレコードを聴いたりしてきたから、というのももちろんあるけれど、母自身のアンテナも相当感度が高い。中学生の頃、部屋でナンバーガールを聴いていたら「これも聴きなさい」とXTCの『Drums And Wires』を渡してきたり、高校生の頃、ゆらゆら帝国を聴いていると「そのいやらしい低音をどうにかしなさい!」と乗り込んできたこともありました。さらにはXTCの覆面バンドであるThe Dukes Of Stratosphearを聴いていたらふすまが少し開いて「隠してもわかる……アンディ・パートリッジだな……」とぼそっと言ってそのままふすまが閉まった、なんてこともあった。XTCは向井秀徳さんが書かれていたレコーディング日記に名前が出てきたバンドだったし、ゆらゆら帝国の低音のいやらしさというのは時代や世代を超えて伝わるのか、と(思春期特有の上から目線で)感心もしたし、デュークスに関しては隠していることさえ見破られていて本当に驚いた。
母は1960年の生まれで、多感な時期にニューウェイヴの直撃を喰らう、という私からしたら本当に羨ましい世代。高校生の頃はデヴィッド・ボウイとイギー・ポップに夢中で、78年のボウイの来日コンサートも観に行った、というし、東京の東武練馬の自宅からせっせと輸入盤屋に通ってはイギー・ポップのブートレグを買い漁っていたそう。80年までのYMOとそれぞれのソロワークスも聴いて、83年までのRCサクセションを追いかけていたのが手元に残っているレコードからわかる。ニューウェイヴ期の遠藤賢司さんやあがた森魚さんのファンで、遠藤賢司さんがやっていた伝説のカレー店「ワルツ」にも通っていたと言っていたし、じゃがたらのライヴを新宿のACBに観に行ったら盛り上がりすぎて当時の女社長が出てきて中止を言い渡された、なんてこともあったそうだ。アメリカの風変わりなバンド、The Residentsの『Eskimo』をジャケ買いし、エスキモーの生活を音楽で表現した、というその音像を真に受けてちょっとしたトラウマになってる、と話してくれたこともあった。結婚、出産を経て音楽とは距離ができたけど、子育てをしながら『ジョジョの奇妙な冒険』を読み耽り、荒木飛呂彦先生が執筆中に聴いているという音楽、レニー・クラヴィッツやプリンスなんかを買って聴いていき、気がついたら息子がよくない方向に育っていた、といえば流れはわかりやすいだろうか。
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- 文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ - category










