最新小説『あの子のかわり』で、親友の妊娠をきっかけに、揺れ動く気持ち。祝福したいはずなのに、胸の奥に引っかかる小さな違和感を丁寧に描いた紗倉まなさん。登場人物たちのささやかな悪意や、親友同士の複雑な感情の往復は、どこか自分の物語のようにも感じられます。書くことで見えてきた感情の扱い方、そして創作の舞台裏までを語っていただきました。
» 【前篇を読む】「30歳を過ぎて、産むか産まないかの選択を…」紗倉まな(32)が感じる、妊娠・出産への“見えない圧”〈悩みの1つに母との距離感も〉
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自分の中に生まれた悪意はいったんiPhoneに書き出してみる
――登場人物たちが抱えているちょっとした悪意が作品全体に散りばめられていて、それが物語に奥行きを与えています。紗倉さんは、自分の中で生まれるどす黒い感情とどう付き合っていますか?
もやもやとした感情って、自分の中で適切な言葉に落とし込まないまま相手に伝えてしまうとただの悪意や悪口になってしまうので、必ず一度、どうしてそう思ったのかを探るようにして書き出します。感情が湧いてしまうのはしょうがないことだけど、言うか言わないかは自分でハンドリングできるので……。
iPhoneにメモしているんですが、誰かに見られたら大変なことになるので、パスコードでロックかけてます(笑)。万が一公開されてしまったら、あらゆる方向に土下座しないと! と思いつつ、言語化したところで、思っていた以上に汚かった感情とより向き合うだけだったりもして、私は穿った見方をしすぎていないか? と同時に反省しています……(涙)。
――主人公・由良の夫は絶妙にむかつくキャラクターですよね。由良が相談しても「ポップにいこうよ!」で終わらせてしまう。
完全に悪い人じゃないから責められないし、ややうっとうしいけど別れるほどではないという絶妙なラインですよね。ある意味このウザさに由良が救われていると言えなくもないかなと。
――この人物像はどのように生まれたのでしょうか?
友人たちに夫婦関係を聞くのが好きで、色々聞いているんです。夫婦関係って喜劇でもあるし、悲劇でもあるなあと。うちは、母親が「解散!」と宣言して、一家離散したので、日常生活を円滑に進める夫婦がどういうものなのかよくわかってないってこともあって。
「言いたいことを普通に話すと喧嘩になっちゃうから、ミュージカル調で会話しています」という方とか、「夫に言い方がきつくて、話を聞きたくなくなるって言われたから、ミッキーマウスのマネをして話しています」という方もいて。みんな、関係をなんとか維持するために工夫していらっしゃるし、その工夫が何よりおもしろいなと思います。
由良の夫が、帰ってくる時に「ただいまんじゅう~」っていうシーンがあるんですが、私はそういう些細な優しさというか、ずれたユニークが溢れているところは結構好きなんです。ポップであることを相手にも強く求める部分もあるけれど、ほどよく寄り添って見守ってくれている人ではあるのかなって。
由良が怒りを感じていることに対して「由良ちゃんは、なんか、戦っているんだね」って返すところも、言われたら本当に嫌なんですけど、同時にどこか救いも感じるんです。問題提起をしているのにこんなこと言われたら唖然としてしまうけれど、「そうか」とも感じるというか。分かってくれなさすぎるのも、分かっているよと言わんばかりの的外れな態度を取られるのもなんかむかつく。由良のそうした複雑で、かつ微妙なラインを行き来できる男性として描きました。
