舞台の上で誰かの人生を生き、俳優として第一線を走り続けてきた井上芳雄さん。日本のミュージカル界を牽引する立場から見た海外作品への視線、そして過密スケジュールのなかで心身のバランスを保つための意外な「抜きどころ」とは。後篇では、多忙な日々を支えるご家族との向き合い方や、次世代を担う後輩たちへの想い、そして40代のいま見据えている未来について伺いました。

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独自の進化を遂げる日本と、世界の「ルール」

――最近はよく韓国にミュージカルを観に行かれていると伺いました。今、韓国ミュージカルは破竹の勢いがありますが、日本のオリジナルミュージカルに関してはどんなふうに思っていらっしゃいますか?

 音楽座などは『アイ・ラブ・坊っちゃん』をはじめとするような日本の話も多いですし、何回も何回も稽古して上演を重ねて、作品の強度を増していくことができるのが日本の舞台の良さだと思っています。上演されるたびに必ずブラッシュアップされていますから。

 ブロードウェイやウエストエンドも観て、韓国にも行っていて思うのは、やはりミュージカルはブロードウェイで生まれたものであり、基本的に西洋のものだということです。だから西洋ならではの“ルール”みたいなものがあり、それに則らないといけないんですよね。韓国ミュージカルはそこに気が付いていて、ちゃんとそれに乗っかって、世界のお客さんに響くものを作っている。これまでの日本は良くも悪くもローカライズが上手くいってしまっている印象です。

――日本はガラパゴス化しやすい文化があるんですね、きっと。

 それもそうですし、日本には有り難いことに多くのミュージカルファンがいらっしゃるので、その方々が喜んでくれればOKみたいな感じでやってきたと思うんです。しかし、それを続けてきた結果、独自のルールが生まれてしまったというか、ルールがあるようなないような、そんな感じになってしまっています。決してそれが悪いわけではありません。特殊なものや面白いものがたくさん生まれていますから。

 ただ、「海外で勝負」となったときにルールが違うので、そもそも競技に参加できない、というような感じになっていると僕は思うんです。もう少し世界のルールを踏まえたうえで独自のものを作るという選択肢もある気がするんですが、今はそうなっていない。

 日本には歌舞伎や宝塚歌劇団という独自の舞台芸術文化あり、それらの影響も多分に受けているので、なかなか海外ミュージカルのルールにだけ則った形ではいかないんだろうなとは感じています。まだまだ混沌としていますが、いつまでも希望を捨てずに自分たちの強みを活かした、世界で勝負できる日本独自のミュージカルが作れればいいですね。

完璧を求めない「ギリギリ」の面白さ

――ちなみに、本当に年間多くの舞台に出演されていますが、ご自身のメンテナンスはどうされていますか? 確か、筋トレはお嫌いだとか……。

 メンテナンスは鍼に行ったり、マッサージに行ったりしていますね。必要であれば、嫌ですけど(笑)、筋トレに行くときもあります。

 僕は役や作品に合わせて「少し痩せないと」「今回はそうでもないな」と体形を調節するので、基本的にはそのスケジュールに合わせて動いています。一般の方とはちょっと違って、必要に迫られて整える、という感じはありますね。

――舞台だけでなく、井上さんはラジオやテレビの出演、コンサートのゲスト出演など幅広く活躍されていますが、忙しいなかの息抜きはどんなことですか?

 息抜きというか……。長くこの仕事を続けてきたからなのか、自分がそういうタイプなのかが分からないのですが、何となく“ギリギリに用意することの面白さ”を楽しんでいるところがある気がします(笑)。そうせざるを得ないからそうなっちゃうだけなんですけど、でも、ギリギリに対応しているからこそ、回せているというのはあります。

 きっと周りの人からは「来週はこれ」「来月はあれ」「来年はこれがある」というふうに、きちっと真面目に管理しているタイプに見えるかと思うのですが、実はそうでもないです。先日も生放送で歌う曲を前日に覚えました(笑)。もちろん前日は必死に練習しますが、「ここまでできたら、もう大丈夫だな」というのは分かる。何と言うか、“突き詰め過ぎない”ことが息抜きなのかなって思うんです。

 僕は多分、自然にまかせるといろいろと突き詰め過ぎちゃうんです。若いときにそういうタイプだと分かりました。だから、ひとつを突き詰めるのではなく、大きな意味で普段から常に“何にでも対応できる自分”でいられるように努めています。韓国にボイストレーニングに行ったり、本や新聞も日常的に読んだりするのも、そのため。好きでやっているんですけどね。お酒も飲みますし、休みの日もちゃんと作りたいとか、その辺りはきっと皆さんと同じだと思います。

――デビューから25周年を迎えられて、いろいろ試されたうえで辿り着いた井上さん流のやり方なんですね。

 そうですね。自分はそうしたほうが安定できる気がします。でも、たまに風邪を引いちゃったり、思いもよらない不調が出たりするけれど、まあ、人間ですから。40代になるのも初めてなわけだから(笑)、上手くいかないこともあって当然かなって思います。

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