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 チケットが手に入らない――。ミュージカルラバーの人たちの嘆く声が聞こえてくるほど、“ミュージカル界のプリンス”と呼ばれる井上芳雄さんが出演する作品は常にチケット難。

 そんな井上さんが、今年もWOWOWで生中継される、アメリカの演劇及びミュージカルに贈られる最も権威ある賞として知られる『トニー賞』授賞式のナビゲーターを務めるそう。

「小さい頃からトニー賞を注目してきた」という井上芳雄さんに番組の見どころや今年の傾向、また、井上さんご自身のミュージカルへの想いなどをたっぷりと伺いました。


僕と世界のミュージカルを繋いでくれたのが、まさにこのトニー賞でした!

――トニー賞授賞式の生中継番組ナビゲーターは6回目だそうですが、井上さんにとってトニー賞の存在についてお話しください。

 ナビゲーターを務めるのは6回目ですが、番組に出演するのは10回目なんです。僕は番組に関わる前からトニー賞が大好きで、毎年注目して観てきましたし、「トニー賞でミュージカルの勉強をしてきた!」と言っても過言ではないので、それに自分が関われるのは嬉しい。趣味と仕事を兼ねているところがありますね(笑)。

 小学校4年生くらいのときに初めてミュージカルを観て、そのあと、当時はNHKのBSで放映されていたトニー賞の授賞式を見た記憶があります。黒柳徹子さんが司会をされていて、ダイジェストのような番組でしたね。10年分くらいの受賞作品をまとめた企画などもあって、それをビデオに録画して何度も繰り返して観ました。

 トニー賞授賞式のパフォーマンスで観たことのあるミュージカルがたくさんあり、それで勉強したり、トニー賞についてまとめた書籍も繰り返し読んで……。

――井上さんは昔からトニー賞博士だったんですね(笑)。

 そんなに知識はありませんが、でも当時のブロードウェイの映像というのは、トニー賞授賞式くらいでしか観ることができなかったんですよ。今はYouTubeなどでも一部観られますけど、昔は情報源が限られていましたからね。

 インターネットも僕が小学生のときは、まだなかったかも。出始めたくらいですからね。もちろん実家にはありませんでしたし。だから、どんな新しいミュージカルが生まれているかも、すべてトニー賞授賞式から知ることしかできませんでした。それらをその後、東宝や劇団四季が上演したり。「あの作品をやるんだ!」とワクワクした思い出もあります。

 僕と世界のミュージカルを繋いでくれた大きなきっかけがトニー賞と言っても過言ではないと思います。

――さて、第77回、今年のノミネート作品が発表になりました。一覧をご覧になって、今年の傾向みたいなものを教えて頂けますか?

 例年、様々なタイプのミュージカルがノミネートされますが、今年はミュージカル作品賞においては、分かりやすく有名なものや映画原作のものといった、皆さんが聞いたことのあるような作品が実は最終的な候補にはあまり入っていないんですよ。

 例えば、皆さんがきっと映画で観たことあるだろうという『バック・トゥー・ザ・フューチャー』は来年劇団四季が上演する予定ですが、これもノミネートには入ってないですし、映画『君に読む物語』のミュージカル版や、僕も出演したことがある『グレート・ギャツビー』が新しくミュージカルバージョンになったもの……。

 いずれも話題でしたが、そういったものがノミネートには残らず、どちらかというと手堅い作品が残っているという印象です。しっかりと評価はあるけれど、大きく派手だったり、大スターが出ているというほどではない、“実”のある作品が残っている気がしますね。

――リバイバル・ミュージカル作品についてはどうでしょうか?

 これは、いわゆる“再演”と言われるもので、元々ある作品を新しい視点や演出を加えて上演する作品の部門です。元々“名作”がリバイバルされているものが多いのですが、結構有名な人がノミネートされているんです。

 映画『ハリー・ポッター』シリーズのハリー・ポッター役だったダニエル・ラドクリフがミュージカル・リバイバル作品賞にノミネートされている『メリリー・ウィー・ロール・アロング』に出演していて、ミュージカル助演男優賞にノミネートされています。

 もうひとり、『ファンタスティック・ビースト』シリーズや映画版『レ・ミゼラブル』のマリウス役で有名なエディ・レッドメインが、同じくミュージカル・リバイバル作品賞の『キャバレー』のMC役でミュージカル主演男優賞にノミネートされていますね。

2024.06.13(木)
文=前田美保
写真=深野未季