国道289号線のうち、新潟県三条市と福島県只見町を結ぶ険しい県境区間を「八十里越(はちじゅうりごえ)」と呼んでいます。一里が十里に感じるほどと呼ばれ自動車通行不能となっていた難所街道でしたが、着工から38年を経て、2027年夏に暫定開通する予定です。
越後と会津を結ぶ八十里越は、物資を運ぶ道としてだけでなく、「文化の道」としての側面を併せ持っています。八十里越で雪国の暮らしと交易を支えた新潟県に根付く「ものづくり文化」と「雪国文化」を感じる旅をご紹介。
» 三条と会津を再び結ぶ「八十里越」と三条・南魚沼の雪文化
» 【三条鍛冶道場】研いで「育てる」までを継承する和包丁の精神
» 【水野製作所】手の感覚だけで形をつくる伝統工芸士の匠な技
» 【Snow Peak HEADQUARTERS】冬限定!自然を感じる雪中キャンプ
» 【白鳥の郷公苑】八十里越の玄関口に白鳥悠々と泳ぐ白鳥
» 【嵐渓荘】国登録有形文化財に指定された趣を冬景色とともに味わう
» 【酒井織物】豪雪地帯南魚沼市で発達した織物の伝統文化
» 【中田屋織物】雪国で受け継がれる越後上布の雪さらし
» 【FARM FRONT SEKINOEN】世界一のお米を最高の状態でもてなす
» 【青木酒造】潤沢な雪解け水と大きな雪室で雪を活用
三条と会津を再び結ぶ「八十里越」と三条・南魚沼の雪文化
新潟県三条市と福島県只見町を結ぶ街道を「八十里越」と言います。その名は、越後山脈を越える約八里(約32キロメートル)の険しい道のりが、十倍の八十里にも感じられたことに由来するといわれています。
この道には、国道289号と認定されながらも、19.1キロメートルに及ぶ自動車の通行ができない区間があり、そのために会津若松方面へ迂回する方法しかありませんでした。その区間の整備が進められ、2027年夏、暫定開通する見込みに。開通すれば、三条市と只見町の間が約78分短縮されることになり、急患搬送など、緊急時の利便性が高くなります。
ただ単純にアクセスがよくなるだけでなく、八十里越周辺は、手付かずの自然がたくさん。新たな観光産業として発展できる可能性を秘めています。
この地は越後と会津を結ぶ険しい峠道であると同時に、雪国の暮らしとものづくりを支える交易の道でもありました。会津側からは越後上布の原材料となるカラムシや木材などの林産物や労働力が越後へと運ばれ、越後からは食塩や魚類に加え、三条を中心に製作された鉄製品などの生活用品が会津へと運ばれていきました。
【三条鍛冶道場】研いで「育てる」までを継承する和包丁の精神
新潟県三条市は、古くから金物の町として知られています。福島県境まで広がる豊かな森林がもたらす薪や炭を燃料とし、信濃川の水運を使って鉄を運び込み、また製品を売りに出ることによって、金属加工の技術が発展していきました。
中でも和釘は、神社仏閣、城郭などの建築物の修理・復元に欠かせないものであると同時に、金鎚で一本一本叩いて作り、茶室の床柱の太さや空間にあわせて繊細に作り上げる技術力の高さが特徴。和釘の他にも次々と専業鍛冶が生まれ、鎌、鋸、包丁など、様々な製造品目が広がっていきました。
「三条鍛冶道場」は、この地域の鍛冶技術とものづくり文化を次世代へ継承する拠点として設立された研修・体験施設です。1990年代初め、安価な海外製品の参入により、三条の鍛冶産業は大きな転換期を迎えることに。そこで、海外にはない三条地域ならではの「手で作る価値」を多くの人に体験できる施設として2005年に誕生しました。
ここでは「和釘づくり」や「ペーパーナイフづくり」、「庖丁研ぎ」の体験ができ、市内小学生のほか、国内外の観光客が訪れます。
近年では教える側の人材にも変化が見られます。外国人講師や若手職人の登用が進んでおり、伝統を重んじつつも、時代に合わせた多様な継承の形が広がっています。
日本の伝統的な刃物づくりは、柔らかい鉄と硬い鋼(はがね)を組み合わせて作られます。海外でも安くて軽い包丁が作られていますが、刃がもろく、折れたり欠けたりしやすく、一度傷むとそれまで、という考え方が一般的。
一方で、日本の和包丁は「研いで永く使い続けること」を前提に作られています。特に三条の刃物は、使い手が研いで大切に「育てる」ことで、何世代にもわたって愛用できるのが特徴。そんなものづくりへの敬意や使い続けるよさまでを伝えながら、伝統的な三条の鍛冶産業を継承していくことを目指しています。
三条鍛冶道場
新潟県三条市元町11-53
https://kajidojo.com/
【水野製作所】手の感覚だけで形をつくる伝統工芸士の匠な技
三条市は、江戸時代に農工具を作っていた頃から越後三条打刃物へと確立されていったルーツがあります。水野製作所は、斧や掴み箸を製造する刃物メーカーとして、鉋の裏刃を製造するため昭和12年に創業を開始。次第に電動工具が用いられるようになり、山林作業や家庭の風呂焚き用の薪割りをするため、鉞、斧の生産が増えるようになりました。今ではアウトドアで使う薪ストーブやキャンプなどに使う道具としての鉞、斧の需要が伸びているそうです。
水野製作所の斧には、刃の両面に3本と4本の溝が入っているものがあります。 3本線は、「身(三)を避ける」ものとして災難を避け、そして4本線の入ったのもは「世(四)を保つもの」として平穏を保つ意味が込められています。自然へ立ち向かって働く人々の安全を願う、日本の職人ならではの細やかな精神性が宿っています。
三条の伝統的な鉞製造は、刃と頭になる部分を別々に火造りし、それらを合わせて成形する点に特徴があります。
この手法で製造しているのは、今では水野製作所のみ。こちらの場合、3つの異なる材料をすべて同じ温度に熱して鍛接する作業が最も難しいとされています。
曲げて、つなげて、形を整えて…。ひとつひとつの作業はすべて職人の手の感覚によるものです。
形を整える段階で使うスプリングハンマーを用いた行程を実際に体験させていただきました。職人さんは何でもないようにやってのけていますが、足踏み式でスプリングハンマーを一定に動かすのは簡単ではありません。習熟すると、微妙な歪みも調整できるようになるので、繊細な受注に柔軟に対応できるのだそう。型を使わず、すべて手作業の中で、同じ製品を均一に作り上げることこそ、長年培われてきた熟練の技です。
なお、三条市では、燕三条地域の企業が一⻫に工場を開放するイベント「燕三条 工場の祭典」を毎年秋に開催しています。ものづくりのまちの観光資源としても注目されているイベントなので併せてチェックを!
水野製作所
新潟県三条市荻堀1397-62
https://mizunoss.com/
