「通の道への近道」とは?

 私が小学校の高学年だった頃にYMOを知り、母が所有するレコードで聴き始めた頃、上野にいまでもある蓄晃堂で『アフター・サーヴィス』というライヴ盤を買ってもらった。3800円だった。初めてレコードを買ってもらった嬉しさは今でも忘れられない。そしてその時、母は一緒に一枚のCDを購入していた。メル・トーメの『Songs For Any Taste』というライヴ盤で、このアルバムではなかったようだが、若い頃、酒場ではメル・トーメやチェット・ベイカーのようなジャズをよく聴いていたという。

 母はこれを機にときどき都心のCDショップに出ては若い頃に聴いていた音楽を買い戻すようになった。私が中学校にあがった頃、母はセルジオ・メンデス&ブラジル’66ブロッサム・ディアリーなんかを少しずつ買っていて、私も夢中になって聴いた。ある日、池袋のタワーレコードで「私は昔聴いてわからなかった、あんまり好きじゃなかったけど渡にはきっと勉強になるよ」とブリジット・フォンテーヌの『ラジオのように』を買い与えてくれたことがあった。今でも愛聴している特別な一枚になったが、私も誰かにそういうことができる人になりたい、と思ったものです。

 何年か前、京都でやっているラジオでチャールス・ミンガスの「Mingus Fingus No.2」という曲を流した時、演奏に参加したメンバーが錚々たるメンツだったのでダニー・リッチモンドユセフ・ラティーフエリック・ドルフィーらの名前を読み上げた。すると放送後、母から連絡が来て、エリック・ドルフィーを若い頃に(おそらく酒場で)よく聴いていて大好きだったことを今の今まで忘れていた、という。その日を境に母は再びジャズを熱心に聴くようになり、次第にSpotifyの使い方も上手になり、今は興味が赴くままに音楽を聴いているようだ。お互いが多感な時期に夢中になった遠藤賢司さんの「通好みロック」の歌詞には「森羅万象 素直な興味を持ち続けることこそが 通の道への近道なのです」とある。私も母もその言葉を確かめるために人生を謳歌しているような気がしてならない。

澤部 渡(さわべ・わたる)

2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。25年にCDデビュー15周年を迎え、5月14日にはアルバム『スペシャル』をリリース。12月14日にはスカートCDデビュー15周年記念スーパーライヴ「超ウルトラハイパーウキウキスペシャル優勝パレード2025」を開催。そして、初のオフィシャルファンクラブ「電撃澤部倶楽部」がスタート!
https://skirtskirtskirt.com/

Column

スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて

シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。