上野動物園の職員は中国のパンダの飼育施設で研修を受けた際、中国国外から来たパンダについて質問した。すると「帰ってくるジャイアントパンダは臆病な個体が多い」との回答だった。同園は中国ジャイアントパンダ保護研究センター(以下、パンダセンター)とパンダの情報を共有したり、互いの飼育施設を訪問したりしてきた。この時は2人の職員が2025年3月18日~23日に中国へ出張し、パンダセンターの施設などを訪れた。

 その1人で、パンダを飼育していた高岡英正さんは当時を振り返り、「(上野動物園で生まれた)シャンシャン(香香)、レイレイ(蕾蕾)、シャオシャオ(暁暁)も、けっして騒音などに強い個体とは言えません」と、上野動物園が2025年10月26日に開催した講演会で語った。

 シャンシャンは上野動物園にいた頃、繊細な面があった。2023年2月21日にパンダセンターの雅安碧峰峡基地(以下、雅安基地)へ行くと慣れるまで時間がかかり、一般公開となったのは渡航から約8カ月後。公開時はガラス越しだ。パンダセンターの各施設の屋外公開エリアで、パンダと観覧者の間をガラスで隔てているのは珍しい。

竹を割る音を聞かせる

 パンダセンターの職員は高岡さんらに対し、「パンダを刺激から遠ざけるのではなく、近づけてあげないと、臆病な個体ができやすいのではないか」と伝えた。パンダセンターは「計画的順化」として、パンダを騒音などの刺激に段階的に慣らしている。例えば、職員が竹を割っていても、パンダを隔離せずに音を聞かせる。竹を割る音は、筆者もパンダセンターの各施設で何度か聞いたことがある。音は大きく、響き渡っていたが、確かに付近には幼いパンダもいた。

 一方、上野動物園は静かな環境づくりを意識してきた。背景には、リーリー(力力)とシンシン(真真)の繁殖を目指していたという事情もある。同園は今後、パンダを飼育する機会があれば、複数のパンダの放飼場を定期的に入れ替えて、互いの匂いをかがせたり、環境音を聞かせたりして、刺激を与えることも視野に入れる方針だ。

 環境音については「モノレールの工事をしているので、工具の音やラジオ、(パンダたちが知っている上野動物園の職員らの声ではなく)知らない業者さんの話し声などから、必要に応じて、少しずつ慣らしていくことを計画的にやっていかないといけないのかなと感じています」。高岡さんは2025年10月26日にこう述べた。

 ちなみにモノレールの工事とは、上野動物園の東園と西園を結んで2019年10月31日まで運行し、2023年12月27日に廃止された懸垂式モノレールの解体工事のこと。解体工事は2024年に始まり、西園パンダ舎の近くでは、軌道桁や支柱、駅舎の解体・撤去を実施。工期は予定より1年以上延びて、2026年3月19日までの予定だ。

 東京都はモノレールに代わり、ジェットコースターと同じような構造の乗り物を整備する。車両は3両編成とし、西園の駅舎は3階建てで、展望フロアや売店を設置する計画だ。都は、この新たな乗り物の運用を2026年度末(2027年3月)にスタートすることを目指していた。だが東京都の花井徹夫建設局長は、2月26日(木)に開催された東京都議会の2026年第1回定例会で、工事開始が2026年度になると明らかにした。そのため運用開始も遅れる。

 今後、中国からパンダが来たら、パンダがいる期間と、新たな乗り物の工事期間が重なることも考えられる。このパンダは上野ではなく中国生まれなので、対応が異なる可能性もあるが、もしかしたら敢えて工事音を聞かせることもあるかもしれない。

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