死の危険もある腸閉塞を防ぐ

 2025年3月に中国へ出張した上野動物園の職員は、パンダの食べ物についても現地の職員と意見を交わした。パンダの主食を竹とすることは同じだが、パンダセンターは必要な竹の量を与えつつも、ある程度、制限しており、それ以上が必要なら、パンダ団子やニンジンなどの副食で調整しているという。竹の幹は腸に詰まりやすくて腸閉塞のリスクがあり、それを予防するためだ。腸閉塞は致死率が高い。2026年2月にも中国・杭州の動物園でパンダが腸閉塞によって命を落とし、国内外のファンに衝撃と悲しみが広がっている。

 上野動物園は、竹を潤沢に与えていた。また、中国と異なり、入手できる竹の種類が限られるので、パンダが竹の幹だけを好む時期は、代わりに食べられそうな竹の葉っぱを用意することが難しく、幹を食べさせるしかなかった。高岡さんらは帰国後、中国の方法を参考にして、竹以外の量を増やすことにした。与えるニンジンの量は以前の5倍ほどに増やし、腸の潤滑を良くする油なども与えた。制約のある上野動物園の環境とパンダの好みを考慮した、新たな取り組みだ。

「パンダたちが中国に帰った時、中国の環境で抵抗なく暮らせることが大切です。そのために、中国のやり方、環境やアドバイスをもっと取り入れて、パンダたちに負荷がかからずに暮らしていける形を目指していく必要があるのかな、ということを今回の研修で学びました」(高岡さん)

 上野動物園は、日本で初めてパンダを飼育し、パンダの繁殖にも日本で初めて成功した。ただ、双子の飼育はシャオシャオとレイレイが初めて。また、パンダは解明されていないことがまだまだあり、飼育技術が進んでいる中国でも飼育方針を変えることがある。そうした中で、同園はパンダの「歩き回り」などの課題と向き合い、改善に挑んできた。

 パンダを飼育していた石神雄大さんは「取り組みの一つ一つが私たちにとっては非常に貴重な経験で、上野動物園の飼育技術を大きく向上させることにつながりました。この経験を記録して、さらに改善し続け、次の世代にしっかりと引き継ぐことが大切です。その積み重ねが、ジャイアントパンダの保全にもつながると私は考えています」と語る。

 今後、再びパンダが上野動物園に来たら、この経験はきっと生かされ、パンダを育む力となるだろう。

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中川 美帆(なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

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