ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第12回。中学高校の同窓会に参加した澤部さんが久しぶりに同級生と過ごした、懐かしくも幸せな時間のお話です。

 中高の同窓会があった。招待をくれたIさんは中学1年生の同じクラスの人で、なんというかあまりの衝撃に、Iさんと同様に、同じクラスで今でも一緒に仕事したりしている松本くんに連絡をとって「なんかの勧誘とかだったらどうしよう?」「そうしたら建物に入るだけ入って逃げようか」とか笑って、参加を決めた。中学の頃は忘れたいことも多いけど、高校にあがって、美術部に入ってからは毎日が楽しくて、年齢を重ねるにつれて、あの日々は嘘だったんじゃないか、と思う時すらあるのだ。

 当日を迎え、池袋で待ち合わせて松本くんを拾って、車で学校に向かい、笑いながら「いやー怖いね」「やっぱり帰っちゃおうか」だなんて話した。一番怖いのは「結局居場所はありませんでした」となることだったけど、実際に受付を済ませてさえしまえば、懐かしい顔や、すっかり忘れてしまっていた顔まで一通り見ることができて、結果的に来てよかった、と思えたし、なんならもっとこちらから連絡できる文化系の同級生に声をかけるべきだった、と反省もした。

 会はお開きになり、二次会に向かう人が会場に移動を始めた頃、「校舎の中、見たいよね」と松本くんと話す。こんな機会滅多にないんだから、と先生に掛け合ってみると、なんとなく帰ってなかった我々みたいな数人と、これから二次会に向かう幹事グループの数人で校舎ツアーが実現した。高校2年の終わり頃から卒業まで過ごした、校舎の5階を目指す。半端な時期だったのはこの校舎が完成してから移動したからだ。旧校舎はもはや跡形もない。学生の頃は使えなかったエレベーターに乗り込む同級生が続出する中、かつての我々がそうしたように階段で5階まで上がる。一緒にいたMが「こんなに景色良かったっけ」と言う。5階から東の池袋方向に抜けるこの大きな窓が好きだったので、この景色をまた見られて嬉しい。

2025.03.29(土)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ