この記事の連載

2016年から始まり、今や数千話を超えるアーカイブを有する大人気怪談語りチャンネル『禍話(まがばなし)』。語り手であり北九州の書店員でもあるかぁなっきさんが「青空怪談」を自称している通り、放送で語られた怪談は基本的に自由に再利用が可能で、リスナーたちがこぞってリライトする文化を生んだことでもその名を広めました。
今回はそんな禍話から、帰省した地元で酒を酌み交わした同級生たちが青春を過ごしたという、“名前の聞き取れない不気味な廃工場”が呼び込む恐怖の一夜をご紹介――。(前後篇の後篇)
連れ立って向かう先には

「吊ったから潰れたんやっけ?」
「ちゃうわ! 潰れてから3人も首くくったんやって!」
またゲラゲラ笑いだしたTさんたちとは裏腹に、横で聞いていたSさんはスゥーっと酔いが覚めて、手先に血が通わなくなっていくような恐怖を感じ始めていました。
「経営がうまくいかんかったんやな。悲しい話やな……」
「いやぁ、経営っちゅうかさ、俺らが高2くらいになったときやったかな……オヤジが■麼й鹵やり始めてな」
「え?」
「せやせや、■麼й鹵な~。なんや儀式みたいやったわ」
「最初はな、なんか風水的なゲン担ぎとか言うとってん」
おもむろに建物の方に歩き始めるTさんたち。
「『これで景気よぅなるから、お前ら今度飲みに連れてったるわ~』とか笑っとったんよ、あのオヤジ」
「ほんで、来たんや、あの女が」
「お香たいたり、手ぇとか首に灰ぬっとけ言うたりしてな~」
「あ~、あったあった! 『これでようなるんです』とか言うとってな~」
「ほな、3人もその儀式に参加したん……?」
「いやいやいや! そんなんするわけないやんか!」
その言葉に、Sさんは内心ホッと胸をなでおろしました。
2025.08.11(月)
文=むくろ幽介