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耳元で聞こえた女の笑い声

「ヤバイヤバイ!!」
「走れ、走れ、走れ!!」
人気のない商店街まで戻ったところで、背後のTさんたちの悲鳴に気づいたそうですが、今更後ろを振り返る余裕はなかったと言います。
なにより、“振り向いたら追いかけてくる何か”の姿を目にしてしまう、それだけは嫌だ――そう思った瞬間でした。
「ふふっ」
耳元で女の笑い声が聞こえたのです。
「うわっ……!!」
バタン!! ゴロゴロゴロ!!
Sさんは思わず走った勢いのままアスファルトの上を転がってしまいました。
「うぅ…………いったぁ」
擦りむいた手をさすりながら頭を起こしたSさん。
目の前に広がっていたのは、自分の目を疑う光景でした。
真後ろにいたと思っていた女の姿はどこにもないばかりか、あの会社の門の目の前にいたのです。
2025.08.11(月)
文=むくろ幽介