この記事の連載
帰省が終わり電車で……

その女は服を着ておらず、代わりに真っ赤に染まった包帯のようなものを首から下、異様にやせ細ったその体にぐるぐると巻きつけていました。
スッと前に掲げられた女の両手。片方は閉じられ、もう片方の開いた親指がその言葉とともに一本パタリと倒れました。
「よぉーーーーんんーーーー……」
数えている。自分たちが門の前を駆け抜けているのを。
それに気がついた時、SさんはTさんたちを見捨てて這いずるように背を向けてその場から逃げ出してしまいました。
◆◆◆
実家で説明をしても「そんな会社は聞いたこともない」「酔いすぎだ」と取り合ってもらえませんでした。
休みを終えて都心に戻る電車の中で声をかけて着たTさんの姿を思い出しました。
『わからんもんやろ。ほら、連絡先交換!』
確かに交換したはずのTさんの連絡先はどこにもありませんでした。
以来、Sさんは地元には一度も戻っていません。
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禍話
2025.08.11(月)
文=むくろ幽介