この記事の連載

 2016年に突如として生配信サービス「TwitCasting」出現した怪談語りチャンネル『禍話(まがばなし)』。同番組は「青空怪談」を自称している通り、物語の余白をリスナー自身がリライトして広げていくという共創型の怪談文化を築いたことでも人気を博しています。

 今回はそんな禍話から、とあるサラリーマンの男性が体験した職場の先輩にまつわるお話をご紹介します――。

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「親戚の件でちょっとね」

 平成の時代、とある地方都市で日用品メーカーに勤めていた当時20代の男性社員Mさんがいつものようにデスクワークに勤しんでいると、先輩社員のHさんが声をかけてきました。

 怒られるような心当たりもなかったMさんは、彼の神妙な面持ちを見て何かトラブルでも起きたのかと内心ヒヤヒヤしたそうです。

「Mさぁ、この前喫煙所で『仕事終わったあとはいつも暇なんで誘ってくださいよ~』みたいなこと言っていただろ。あれ割と本気だったりする?」

「あー、はい。割と本当に暇ですよ。特に趣味もない人間なんで。何かあったんですか?」

「プライベートの話なんだけど、人手が欲しいことがあってさ。金曜の夜とか、どう……?」

「大丈夫っすよ。どんな用ですか?」

「親戚の件でちょっとね。まあ、詳しいことはまた後で言うよ。邪魔してすまん。ありがとうな」

 Hさんの口から「親戚」という言葉が出たことに驚きを感じたと言います。というのも、Hさんは普段からプライベートの話をしない人で、飲み会などで盛り上がり家族の話題が出ても席を立ったり、自然な感じに話をそらしたりすることが多かったのです。

 そんなミステリアスな上司がプライベートなことで自分を頼ってくれている。人によっては怪しむかもしれませんが、実直で熱血なところのあったMさんは、不安より頼られることの嬉しさが勝ったのでした。

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介