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電話の向こうで嫁とやりとりするKさん

 ここまで話したところでHさんは急に言いよどんだそうです。

「あの人、なんで嫁の話なんて持ち出してきたんだろうな……ああ、ごめん、ごめん。もう亡くなっているのよ、Kさんの嫁。1年以上も前にさ」

「え……」

「タチの悪い冗談言うなよって思うよな。だから俺も聞いたんだ」

『Kさん、あの、彼女はもう――』

 ガタンッ!!

『……ッハッハ。すまん、今嫁に頼まれて外にジュース買いに出ていてさ。コンビニまで距離あるから自販機でいいかなって。えーと、どこまで話していたっけ?』

「もう、電話切ろうかと思ったときにさ、電話越しのKさんが言ったんだ」

『うわ……え、何してんの、お前?』

『Kさん?』

『いや、あの女が家の前に……おい、お前もう来るなって言ったよな!』

 電話越しから聞こえる音から察するにKさんは携帯を耳から離し、家の前に佇んでいるというその女に向かって足早に駆け寄っているようでした。

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介