この記事の連載
金原ひとみさんインタビュー #1
金原ひとみさんインタビュー #2
女性が差別・搾取される世界とどう向き合えばいいのか。最新作となる『YABUNONAKAーヤブノナカー』でその問題と向き合った作家・金原ひとみさん。かつては問題を無視して無自覚に加担してきたのではないかという罪悪感もあり、声を上げることに抵抗があったといいます。
しかし今や、時代の変化は待ったなし。編集部に集まった「#女性として生まれてきたがゆえに起こる悩み」に対し、金原さんがかけてくれた言葉とは?
相談:性差別をなくすにはどうしたらいいですか?
回答:人権を意識させる教育が必要です(金原ひとみさん)

――最新作は複数の人物が語る『藪の中』形式。客観的な複数の視点で出来事の輪郭が浮かび上がります。
金原 人の話を聞くと、自分と認識や価値観、捉え方が違い、どう切り込んでいいのかわからないという場面が多々あります。その壁を直視するため、複数の俯瞰視点で向き合おうと思ったのが創作のきっかけです。
――男性も含めた多くの人物の視点を通して語られる女性のつらい経験が歪められ、矮小化され、あるいは全く理解されない現実があることも鮮烈にあぶり出していました。
金原 私自身、性加害のような重大な問題を語る際に、男女間や世代間で生じる認識のずれが、想像以上に大きな隔たりとなることにショックを受けてきました。だからこそ、それぞれの認識を描く必要がありました。ただすべての登場人物は、わからない他者ではなく、私の一部でもある。人は多面的で、どんな人でもそれなりに共感できる部分があるものだと思うんです。
笑って済ますしかなかった。いまだに癒えない心の傷
――「#女性として生まれてきたがゆえに起こる悩み」をどのようにご覧になりましたか?
金原 これは個々人の体験でありながら、現代社会の縮図であると思いました。正直なところ、これらの問題の根深さに対して、自分に何が言えるのだろうかと少し及び腰になったほどです。
――今回集まった声の中には「当時笑って済ますしかなかったけど、いまだに癒えない心の傷のようなもの」が多くありました。
金原 まず、社会の意識の変化とともにそれが「被害」であることに気づける人が増えたというのはいい側面だと感じました。これまでは「こんなことを愚痴ってもしょうがない」と思っていたことが、今では「完全にアウト」の範疇に入り、社会も個人の意識も少しずつ変わってきています。
だからこそ、「女性の身体への無理解」などは教育で変えられる部分なのでいい加減対策を取るべきですし、男女で扱いが違うというのも、人権教育の足りなさを痛感させられます。時代の変化に社会が対応していけば、もっと個人の苦しみを減らすことができるはずです。
――金原さん自身が、社会への眼差しや女性の尊厳に関心を持たれたきっかけはなんだったのでしょう。
金原 同世代の女性のほとんどが経験しているとは思いますが、私も若い頃から、付き合っている相手や元夫から、今振り返るとマイクロハラスメントだったな、と感じるようなことをたくさん経験してきました。当時は疑問に思いつつ流してきたことも、ハラスメントに対する社会の意識が高まる中で、「あれはこういうことだったのか」と答え合わせができる瞬間がようやく訪れたように思います。
過去に相手の言動で最も許せなかったのは、こちらの仕事を軽視する発言でした。その時は、その日のうちに別れたいと申し出ました。
私には娘がふたりいるので、彼女たちには同じような経験をさせたくない、こういった負の遺産を残してはならないという気持ちもあります。
――娘さんたちが気になります。
金原 私は若い頃日常的に痴漢やDVなどの被害に遭っていたので、妊娠中に子供が女の子であることを知り、絶望的な気持ちになりました。ですが、実際に育てていく中で、子供を取り巻く環境が少しずつ変化していることを実感しました。
例えば女の子だからとか、男の子だからという押し付けも自分の幼少期に比べて減っていたし、学校や家庭などでも体罰や虐待が問題視されて排除されつつあるし、そうした環境の中で、おかしいことに声を上げられる子供が増えているようにも感じています。
――金原さんは誰かと悩みを共有するようなことはありましたか?
金原 離婚経験者の友人たちとはよく話しています。情報を出し合う中で、モラハラをする人の言動があまりに一致していることに驚きました。「こういうことを言う人とは距離をとった方がいい」という傾向がはっきり見えて、もっと早くに色々共有していればよかったと言い合っています。
2025.08.30(土)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘
CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。