好評発売中の「CREA」2025年夏号では、母娘問題、職場の人間関係から、性やお金の悩みまで、OVER THE SUN(ジェーン・スーさん、堀井美香さん)のおふたりをはじめ、みうらじゅんさん、叶姉妹さん、上沼恵美子さんなど様々な「人生相談の名手」に読者の悩み相談に乗っていただきました。
今回の回答者は脳科学者の中野信子さんです。
CREA 2025年夏号
『1冊まるごと人生相談』
定価980円
もっぱら回答者の人生経験に基づいてアドバイスするのが人生相談。しかし中野信子さんは『週刊文春WOMAN』の名物連載だった「中野信子の人生相談」で脳科学や心理学という自然科学に基づいて回答を導き出した。あらためて中野さんに聞く「では人はなぜ悩むのか」。
【相談】そもそも悩むのはなぜでしょう?
【回答】人間の脳に生まれながらに備わる必要な機能です(中野信子さん)

初めて人生相談に興味を持ったのが、中島らもさんの「明るい悩み相談室」です。朝日新聞で連載が始まった時、私は9歳でしたが、らもさんの回答は、見事に相談者の悩みの本質を突いていることが子どもながらに分かりました。
人は相談する時に本当の悩みを語っていない
人は悩みを言葉にする時、往々にして悩んでいることをきれいにアレンジして話してしまいます。それは、こんなことで悩んでいるのは恥ずかしいとか、本当は違うところに悩みの原因があると分かっているのに隠したいといった心理のなせる業でもあり、また、人は5個も6個も別のことを並行して考えることはできるのに、複数のことを同時に伝えることはできないという言語の限界ゆえでもあります。そのため、言語的に発せられた悩みに真正面から答えると、本当の悩みに向き合えていない場合があるのです。
らもさんは時に相談者を茶化すこともありましたが、四角四面の表面的な回答よりよほど誠実であると感じました。そしていつの日か、私もこのように悩める人の心に刺さる何かを届けられるようになりたいと思ったものです。
長じて今、私自身は不安や苦しみや葛藤を泣きながら抱えて生きる、凡人中の凡人であると思います。それが何の巡り合わせか、友人や知人から悩みを打ち明けられるようになり、やがてメディアを通して面識のない方たちからのご相談にも乗ることになりました。
神経科学では、必ずしも人間がすべての行動を意識的にコントロールしているわけではなく、無意識に判断を委ねるほうが優れた選択をすることがあるということが判っています。大事なことは熟慮して決めるほうがよいと思われがちですが、正しい選択をするために「直感」は大切なのです。私もいただいたご相談には初見で悩みの本質を読み取るようにして即、お答えするようにしてきました。
また、お答えするに当たっては科学者の一員として、自らの経験値によらず、科学的な知見、統計学の客観的なデータに基づいてお話しするようにしています。私が人生相談に乗っているようだけれども、私はただ、「100%ではないけれど直感に従って行動したほうが後悔はしづらいですよ」とか、「あなたの不安の95%は現実になりませんよ」とか、科学で分析されている結果を分かりやすくお伝えしている翻訳者にすぎないのです。
2025.06.09(月)
文=小峰敦子
写真=平松市聖
CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。