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「目的地、周辺デス」

『おい……あんた何してんだ。やめろ……おい、やめろって!!』

『Kさん?』

『やめなさい……引っ張っちゃダメでしょ自分の髪を!!』

「そこで電話切れちゃってさ。何度掛け直しても電源切れているみたいで繋がらなかったんだけど、翌日メールが届いて、見たら『嫁には似ても似つかなかったわ!(笑)』って書いてあったんだ。意味わかんないだろ、これ」

 郊外住宅地に向かってひた走る音だけが響く中、Mさんは先輩の頼みを引き受けたことを心底後悔したそうです。

 ポーーーーン。

「目的地、周辺デス」

 静寂を破ったのはカーナビの音声でした。

 同じような背丈の2階建ての家が並ぶ夜の住宅地を、Kさんの家を探しながら進んでいくHさん。

 ふと、Mさんの方を向いて彼が申し訳なさそうにこう言ったそうです。

「ごめんなぁ」

(後編に続く)

次の話を読む開け放たれた玄関ドア、裸足で出歩く家主……夜に尋ねた親戚の家で感じた“いない妻”の気配と衝撃の結末

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2025.08.13(水)
文=むくろ幽介