CREAが取材してきた数多の温泉宿から、ひとりに優しい魅力ある温泉宿をセレクト。いつか訪れたい憧れの宿、再訪したい思い出の宿、絶景を楽しむサウナも併せてご紹介。

 歴史ある優れた建築と向き合うのも、ひとり温泉の醍醐味。歳月を重ね、こだわりあるお手入れが施された館内で、心と体の休日を。


乙女心を携えて、1世紀の時間旅行

●旅館花屋[長野・別所温泉]

 「個性は、ただの“古さ”ではなくて」それまでの、ほがらかで優しげな表情が一瞬、引き締まる。

 「受け継ぎ磨かれて、残されてきたもののよさ。日本文化の伝統と歴史に想いを馳せて、日常とは違う時間を楽しんでいただきたいですね」と続け、ふたたび顔をほころばせる。

 ご案内くださった下澤佐織さんのこの言葉こそが、「旅館花屋」の正しい味わい方と言えるだろう。

 いわれを辿れば、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の時代から。信州最古の温泉としてひときわの歴史を携える別所温泉。「ここにゆったりくつろげる宿を作ろう」と、地元の有志たちが共同出資し、建てられたのが大正6年のこと。

 昭和に入って老朽化が進み、界隈の旅館がビル型にぞくぞく建て替える中、4代目当主の飯島春三氏はこれを頑なに拒否。

 当時の趣を大切に抱き留めながら、慎重に修繕や増築を重ね、2026年に110年を迎える。貫いた意思が花咲き、ほぼ全館が文化庁登録有形文化財に登録されている。

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CREA Due 2026年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。