大粒で極上のダイヤモンドだけを扱うジュエラーとして知られ、「21世紀のキング オブ ダイヤモンド」と称されるロンドン発のハイジュエラー、グラフ。1960年に現会長であるローレンス・グラフ氏が創業して以来、原石からジュエリーになるまでの全工程を自社で手がけることで、最高級のダイヤモンドジュエリーを生み出してきた。ローレンス・グラフ氏が人生を懸けて追い求めてきた、至高の輝きとは?


未来を照らすグラフのダイヤモンドの魅力に迫る

ダイヤモンドよりドラマティック 村山由佳

 世界に名だたる宝石店が密集するロンドンのボンドストリート。その一角に、白亜のファサードにグリーンのオーニングが眩しい『グラフ』の本店がある。何度あの街を旅し、ゆるやかに湾曲するあの道を行き来しても、『グラフ』の堂々たる店構え、ショーウィンドウに並ぶジュエリーたちの美しさと煌びやかさは、他店を圧倒して私の目に迫ってくる。

 創業100年を超える老舗のめずらしくない宝石業界において、『グラフ』の歴史は65年と新しい。にもかかわらず、創業者であり現会長であるローレンス・グラフ氏は、「21世紀のキング オブ ダイヤモンド」の異名をほしいままにしている。いったいどんな人生を歩んできたのか。

 15歳の時、ロンドンのとある工房の見習いとして働き始めたローレンス少年は、ダイヤモンドの持つ魔力に魅せられ、18歳という若さでジュエリー修理工房を立ちあげる。彼には優れたダイヤモンドを見抜き、それぞれの個性を最大限に活かす天賦の才があった。

 まもなく彼は、あるディーラーから60ポンドで33個の小さな石を手に入れる。凡人ならばこれで33本の手頃なリングを作るが、グラフ氏のグラフ氏たる所以は、たった1本にすべての石をセットして、まばゆく輝くダイヤモンドリングを産み出したところだ。そのリングは瞬く間に売れ、工房は評判を呼んで、1960年、彼が22歳の時に『グラフ』が設立されることとなる。伝説の幕開けだった。

「私は勤勉な家族の一員として育ちました。そして何よりも、成功する意志をもってこの世に生まれてきたのです」

 ダイヤモンドに関わる仕事こそは自分の天職だと信じている、とグラフ氏は言い切る。おそらくはこの世で最も愛するものに恥じることをしたくないのだろう、『グラフ』社は、紛争国との取引規制のためにダイヤモンド原石の出処を明らかにする「キンバリー・プロセス認証制度」を厳格に遵守することでも知られている。

 グラフ氏の揺るがないまなざしに、情熱の原点を見る思いがする。

 ダイヤモンドという宝石の王者に匹敵する、このドラマティックな人生。

村山由佳(むらやま・ゆか)

使の卵 エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞・島清恋愛文学賞・柴田錬三郎賞、21年『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ、『ミルク・アンド・ハニー』『ある愛の寓話』『Row&Row』『二人キリ』など著書多数。近著に『PRIZE―プライズ―』がある。

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