この記事の連載

2016年から生配信サービス「TwitCasting」で始まった怪談語りチャンネル『禍話(まがばなし)』。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、彼の後輩であり映画ライターでもある聞き手・加藤よしきさんが織りなす怪談配信は「青空怪談」を自称しており、物語の余白をリスナー自身がリライトして広げていくという共創型の怪談文化を築いたことでも人気を博しています。
今回はそんな禍話から、小学生の男の子が夏休みに虫捕りで訪れた山中で体験したという不可思議なお話をご紹介します――。(前後篇の後篇)
静かな山に響き渡る叫び声

静かだった山道の向こうから聞こえてきた焦りと恐怖に満ちた叫び声。
Yさんは心臓がドクンと脈打つのを感じたそうです。
「走れ! 走れ!」
TさんたちははぐれたYさんを見つけたことなど眼中にない様子で、しきりに後ろを振り返り、誰かが追いかけてきていないか気にしていました。
「みんなどうしたの……?」
「もう来てないよね……!?」
「わかんない……わかんないよ……」
「みんな落ち着いて!」
「お兄ちゃん! Y、いた!」
「よかった……これで全員いるな?」
「みんな何があったの!? 教えてよ!!」
蚊帳の外に置かれていたYさんは声を荒げました。
「ごめん……さっきぼくら20メートルくらい先で煙突のある建物を見つけたんだ。で、ぼ、ぼくがちょっと登ってみようよって言っちゃって……。で、みんなもついて来てくれたんだけど……中にすごい背の高いおじさんがいて、目があった途端にすごい顔で追いかけて来たんだよ……」
2025.08.14(木)
文=むくろ幽介