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「一体みんなはあそこで何を見たんだ…」

 それから数日後の夏休み明けの登校日。

 一緒に虫捕りに行った女子4人が学校を休みました。

「えー、4人とも夏風邪が出てしまったということなのでお休みです。みんなも気をつけましょうね」

 休み時間、青ざめた表情のTさんら虫捕りに行った友人たちが話しかけてきました。

「女子たち本当に夏風邪だと思う?」

「え、どうだろう……どうして?」

「……いや、別に。Yは見たよな?」

「見たって、何を?」

「おじさんの夢」

「夢?」

 自分の返答にTさんたちが驚きと絶望の混ざったような表情を浮かべていたのが、Yさんは今でも脳裏から離れないそうです。

「なんでもない」

 翌日、Tさんら3人の友だちは一斉に学校を休みました。

「夏風邪流行ってんなぁ~。Yも行ったんだろ? あの虫捕りイベント? 次はお前が夏風邪かもなぁー」

 他のクラスメイトの冗談をうまく返せなかったYさん。

「それでは授業を始めます。みんな席着きなさーい」

 次の授業が始まり、みんながガヤガヤと席につく様子が画面の中の映像を見ているように遠くに感じたそうです。

『さっきぼくら20メートルくらい先で煙突のある建物を見つけたんだ』

『見たんだ……白い煙突……』

 一体みんなはあそこで何を見たんだ……背の高いおじさんって何者なんだ……。

 突っ伏していた顔を上げて窓の向こうを見た時に初めてYさんは気がつきました。

 青々とした山の中腹。強い日差しでじりじりと揺らめく景色の中で、あの白い煙突からモクモクと黒い煙が立ち上っていたのです。

2025.08.14(木)
文=むくろ幽介