今から半世紀以上も前、福島県南相馬市の小さなパン屋で生まれた「よつわりパン」。愛らしい見た目のそのパンは、世代を超えて親しまれてきたが、その理由はおいしいから――ただ、それだけではない。

 その背景には、東⽇本⼤震災の時、自らも被災しながらパンを焼き続けた人たちの物語があった。


ケーキをイメージして生まれた「よつわりパン」

 福島県南相馬市の原町で1951(昭和26)年に創業し、今年で75周年を迎える「原町製パン」。現在は、2代目の佐藤敬一さん・まりさん夫妻が店を切り盛りし、息子の浩一さんが中心となり、パンの製造を行っている。

 看板商品の「よつわりパン」が誕生したのは、今から約65年前。当時はあんぱん、クリームパン、ジャムパンが主流で、ケーキは贅沢品でなかなか買えない時代に、初代が“ケーキのようなパン”を思い描いて生み出したのが「よつわりパン」だ。

 「実は、発売当初はフラワーパンという名前だったんです」と佐藤さん。

 十字に切り込みを入れたパンにこしあんとホイップクリーム、中央にはシロップ漬けのチェリーが輝く見た目が、花のように見えることからそう名付けた。ところが実際には、“よっつに割れたパン”と見たままの名前で呼ばれることが多く、思い切って「よつわりパン」へと改名することに。

「それから“よつわり”の愛称で親しまれるようになって、あっという間に看板商品になりました。これも、お客さんが付けてくれた名前のおかげですね」(佐藤さん)

 そうした誠実な姿勢も信頼を集め、地元の幼稚園、小学校、中学校の給食パンも任されるようになった「原町製パン」は、やがて“原町の顔”へと成長していく。次第に、遠方から車で訪れる人も増え、2010年には広い駐車場を備えた現在の店舗へ移転。その頃、息子の浩一さんも店を継ぐ決意を固め、父から基礎を教わると、独学でパンづくりに向き合う日々が始まった。

 そうして、家族一丸となり、創業60周年という節目を迎えようとしていた2011年。東日本大震災が発生する。

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