歌舞伎の名門に生まれ、幼い頃から舞台に立ち続けてきた市川染五郎さん。彼にとって初のストレートプレイ出演となる作品は、奇しくも祖父・二代目松本白鸚、父・十代目松本幸四郎が演じてきた、高麗屋にとって特別な意味を持つ『ハムレット』。自らの手で「道」を作ろうとする若き俳優の、等身大の葛藤と心意気に迫ります。
高麗屋の宿命を背負い、新時代のハムレットへ
――『ハムレット』は代々、高麗屋さんが演じてこられた大切な作品ですが、オファーが来た際のお気持ちを教えてください。
シェイクスピア劇を代々やってきたというのはもちろん知っていましたし、特に『ハムレット』は祖父、父と繋いできたものでもあるので、家にとって特別な作品だというのは子どもの頃から感じていました。
13歳のときに朗読劇で一度経験させていただきましたが、当時はストレートプレイのようなセリフの経験もなく、全編を通したわけでもなかったので、強い悔しさが残ったんです。
シェイクスピア劇自体が非常に哲学的ですし、当時はなかなか理解できなかった部分も多く、それが悔しさに繋がっていました。ですから今回、やっとリベンジできるときが来たなという感覚です。
――初めてのストレートプレイで主演を務めますが、現時点でシェイクスピア劇とどう向き合おうと考えていますか?
世界中で何百年、あらゆる方々の手によって様々な解釈で上演されてきた作品です。解釈が無限に存在するからこそ、ひとつの形だけを知っている状態では“ハムレットとして、その役を生きる”という領域まで行けないのではないか、と思うんです。
単に“演じる”だけにならないよう、今、世の中に存在する多様な解釈を自分の中に引き出しとして持っておくことが大事だと考えています。
それでいて、お客様が事前に勉強して来ないと分からないような、理屈っぽいものにはしたくありません。演じる側としてはいろんな“ハムレットの引き出し”をできるだけ多く持ちつつも、その中から自分が正しいと思うものを選び取り、唯一無二のハムレットにできればいいなと思います。
――『ハムレット』という作品自体にはどんな印象をお持ちですか?
最初は、若いからこその危なっかしさや、周りが見えなくなり突っ走る中で葛藤していく話だと思っていました。しかし調べるうちに、これは必ずしも若者特有の悩みではなく、生まれ落ちた境遇や宿命の中で思い悩む“人間”の話ではないかと思うようになりました。それが一番、自分の中でしっくりくるハムレット像なんです。
そのため、単に若々しく見せる必要はないと考えています。実際、劇中の彼は30歳前後という説もありますし、お客様が思い描くハムレット像からはみ出さず、かといって若々しいだけでなく。冷静に一つひとつ立ち止まって悩んでいる、そんな人物として描きたいですね。そのほうが、いろんな世代の方に共感していただけるハムレット像になる気がしています。
――白鸚さん、幸四郎さんの『ハムレット』は映像でご覧になりましたか?
祖父の出演作は観ました。セリフ廻しなど、やはり随所に祖父らしさが出ていると感じました。祖父はセリフ廻しがとても音楽的なんです。かなり早口で喋りながら、すべてがしっかり聞き取れるのがすごいな、と。
舞台はマイクを持って話すわけではないので、そこは自分の技術が重要になってきます。祖父の技術を少しでも吸収しながら進めていきたいです。普段の歌舞伎でも、かなり祖父を意識してはいるのですが……。
あとは当時の台本を借りました。翻訳が違うので読み込むというわけではありませんが、当時の書き込みなどは非常に参考になると思っています。
