歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」夜の部で上演中の『源氏物語』で、光源氏を演じて観客を魅了している市川染五郎さん。染五郎さんは美的センスあふれる姿でも知られる存在ですが、近年は幅広い役に取り組み歌舞伎俳優としてさまざまな表情を見せています。上演中の舞台の様子とともに近況をお届けします。
優美な貴公子ぶりで令和の光源氏誕生!
坂東玉三郎さんの監修で上演されている『源氏物語 六条御息所の巻』は光源氏の年上の恋人・六条御息所と正妻である葵の上のエピソードを描いた物語。幕が開くと平安絵巻の世界がスタイリッシュな舞台となって立ちあらわれ、客席にその雅な雰囲気が存分に浸透したところでいよいよ染五郎さんの登場となりました。立ち姿の美しさといい優雅な物腰といい、期待通りの貴公子ぶりです。
「玉三郎のおじさまにおっしゃっていただいたことで一番印象深かったのは、平安時代の貴族は日常の生活の中にも様式がある、という言葉です。座った状態から立つというような、ごく普通の動作においてもそれは言えることで、意識してやっているかのように見えてしまうとぎこちなくて美しくない。お客様にタイムスリップしていただくためには、その時代なりの普段の生活をごく自然に演じられるようでなければいけない……。これはどんな芝居にも言えることだと思いました」(染五郎さん・以下同)
その名の通り“光り輝く君”として描かれている人物に対しては、どのような思いを抱いているのでしょうか。
「たくさんの女性に好かれる人物ですが、それは男としてだけでなく人を惹きつける魅力があるということなのだと思います。玉三郎のおじさまのご指導のもと平安時代を生きる、そのような人物として見えるように、セリフの間やテンポに気をつけてゆっくりとおおらかに語尾まできっちり言うようにしています」
世界最古の長編恋愛小説といわれる「源氏物語」は、世界各国に翻訳されさまざまなコンテンツが生まれ、歌舞伎でもたびたび取り上げられてきました。日本の文化の中で育まれた美しい所作を身につけ優美な姿を体現してくれている染五郎さんが、令和の光源氏としてこの後も観客の目を楽しませてくれるであろうとことは必至。これはその第一歩となる舞台です。
2024.10.24(木)
文=清水まり