この記事の連載
「その瞬間の特等席へ【星のや】を巡る旅」~「星のや沖縄」前篇
「その瞬間の特等席へ【星のや】を巡る旅」~「星のや沖縄」後篇
「その瞬間の特等席へ【星のや】を巡る旅」~「星のや竹富島」前...
「その瞬間の特等席へ【星のや】を巡る旅」~「星のや竹富島」後...
「その瞬間の特等席へ。【星のや】を巡る旅」~「星のや軽井沢」...

野鳥の森と星野の丘に囲まれた谷間にたたずむ「星のや軽井沢」。外界から切り離された環境が創り出す別世界で、季節ごとの滞在プログラムを楽しむことができます。訪れたのは、軽井沢にたくさんの思い出があるという松本隆さん。かつての記憶と今の風景が静かに重なります。
清流が涼を運ぶ棚田の庭でアフタヌーンティーを
「星のや軽井沢」の敷地内には、浅間山を源とする清流を引き込んだ棚田の庭があります。そのランドスケープと一体化するように設えられたオールデイラウンジ「棚田ラウンジ」は、2024年に誕生したこの宿の特等席です。
盛夏の緑を映す水辺で、幾重にも水がこぼれ落ちる様子を眺めながら「日本の原風景って、やっぱり落ち着くね」と、くつろいだ様子の松本さん。聞こえてくるのは、涼やかな水音とエゾハルゼミの声、木陰には爽やかな風が吹き抜けていきます。
やがて運ばれてきた「棚田アフタヌーンティー -夏-」は、1日1組限定で楽しめる8月31日までの特別なメニュー(1人10,000円、税サ込。提供は13時~)。甘いもの好きの松本さん、心なしか目がキラリと輝きました。

「山の肉と川魚、旬の夏野菜が織りなす信州のテロワール」をテーマにしたセイボリーは、鹿肉の糀香草サンドや、清流育ちの鯉の昆布〆と信州サーモンを使った手綱寿司など、信州ならではの食材を活かした滋味。
棚田の情景をモチーフにした特別な三段重には、山葵、味噌、七味を用いたマカロン、みずみずしいメロンやマンゴーのカクテル、熊笹のティラミスなど、見た目にも爽やかな甘味が並びます。



ドリンクは、シードル専門醸造所「林檎学校醸造所」(長野県飯綱町)と共同開発したロゼシードル「POMME ROSE」と、山桜の樹皮を使用した「桜樺茶」を用意。
希少な赤果肉りんご<炎舞>など3種のりんごを使い瓶内で二次発酵させた「POMME ROSE」は、香り高く甘酸っぱい口当たりが魅力。「桜樺茶」は大山桜の樹皮を使い、優しい口当たりと爽やかな風味で、フードの味わいを引き立てます。

川のせせらぎや木漏れ日に包まれながら、軽井沢ならではの涼やかな食のひとときを満喫した松本さん。ひと息ついて、敷地内を散策しながら客室へと向かいます。
木漏れ日の散策路、小さな橋をわたって客室へ

西洋の暮らしに迎合しすぎることなく成熟した、もうひとつの日本。「星のや軽井沢」は、そんなアナザーヒストリーをもとに創られた“谷の集落”です。浅間山を源とする清流の周囲には、もともとこの地にあった木々や在来種の植物が息づき、どこにいても水の気配を感じながら散策を楽しめます。
「あれは中学生のときだったかな。修学旅行先が軽井沢で、<星野温泉>に来たことがあるんだ。もちろん『星野温泉旅館(ホテル)』の時代だけれど」
かつてはこの地に別荘を持ち、毎週のように通っていた時期もある松本さんにとって(関西に居を移したことで足が遠のき、手放すことにしたそう)、久しぶりに訪れた軽井沢は郷愁を呼び起こす場所のようです。

自然をなぞるように設計された美と安らぎ
客室は主に西側の丘を背に配置されていますが、その斜面を尊重した階段構造もまた、自然と共生調和するという「星野温泉旅館」時代からの理念を引き継いだものです。松本さんが滞在したのは「水波の部屋」の2階。テラスからは豊かな森の風景を眺めることができます。



室内と周囲の自然はゆるやかに融合し、風が鳥や虫の声を運んできます。「水波の部屋」に限らず、客室はいずれも天井が高くゆったりとしたつくり。温まった空気を排出し、涼しい風を取り入れる「風楼(ふうろう)」と呼ばれる小屋根の仕組みによって、朝晩は空調を使わずとも心地よく過ごせるようになっています。
客室の水道水は浅間山麓水系の伏流水で、もちろん飲んでもおいしい水。こうした自然の力を活かした設計や、時計やテレビを廃しデジタルデトックスを促す空間が、心にも体にもやさしいウェルネスな滞在へと導いてくれます。



2025.08.04(月)
文=伊藤由起
写真=平松市聖
写真協力=星のや
協力=星野リゾート