ラグジュアリーホテルブランド「星のや」が掲げる“土地と共鳴する世界観”を掘り下げる連載。第1回はデザインに焦点を当てる。

 江戸文化をモチーフにした「星のや東京」のしつらえと江戸の暮らしが見える浮世絵を重ね合わせると、感性豊かな物語が見えてくる。


星のや東京が魅せる、江戸の意匠

江戸の洒落心をちりばめた東京・大手町の日本旅館

 日本旅館とは、建築、しつらえ、食事などにその土地の「固有の文化」を映し出す宿泊施設。「星のや東京」は、そんな日本旅館を現代に進化させた宿だ。“土地と共鳴するデザイン”というモットーに基づき、空間に江戸の意匠や伝統色を取り入れることで、かつての江戸城正門「大手門」に由来する土地のストーリーを表現している。

 例えば、江戸時代の人々は幕府の奢侈禁止令により派手な装いを禁じられたが、制約の中で“控えめな中の洒落”を磨き上げた。遠目には無地に見えるが、近づけば精緻な柄が現れる「江戸小紋」は、その典型例。「星のや東京」の外壁もまた、遠くからは黒い壁面に見えるが、近づくと江戸の伝統模様をアレンジした「麻の葉くずし」が浮かび上がる。

 客室の照明の矢絣模様も、近寄らなければ気づかないほど細かい。また、床の畳は歌舞伎役者・佐野川市松に由来する市松模様に組まれ、江戸のデザインが表現されている。

 館内には、「その瞬間の特等席へ。」というブランドコンセプトを体現する、緻密な仕掛けも隠されている。それは窓から射す光が室内に描き出す、外壁の麻の葉くずし模様の影。限られた時間にだけ現れるその光景は、自然が創り出すアートのようだ。

 “土地と共鳴するデザイン”は、単なる意匠の復元ではない。江戸の美学を織り込みながら現代の宿泊体験へと昇華させることで、訪れる人に時代を超えた感性を体感させる試みなのである。

星のや東京

所在地 東京都千代田区大手町1-9-1
電話番号 050-3134-8091
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyatokyo/

2025.10.09(木)
文=小松めぐみ
写真=杉山拓也
構成=梅崎奈津子

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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