午後の室内に映し出される外壁の麻の葉くずし模様の影は、宿泊客だけが楽しめる刹那のアート。 「お茶の間ラウンジ」の窓際席。午後の光が障子に映し出す外壁の麻の葉くずし模様は、まるで光のアート。 遠くから見ると黒いビルのようだが、近づくと麻の葉くずし模様が浮かび上がる。 提灯のように絹のシェードを繫げたエントランスの照明。 やわらかな曲線を描くレセプションは、伝統色の朱色のカウンターが印象的。 月岡芳年《松竹梅湯嶋掛額》明治18年(1885)、太田記念美術館蔵 歌舞伎「松竹梅湯島掛額」の重要な見せ場を描いた作品。主役の「八百屋お七」が恋人の危機を救うために火の見櫓に登るシーンの着物は、麻の葉模様が定番だが、本作では矢絣で描かれ、帯が麻の葉模様になっている。 二代歌川国輝《江戸名所合の内 十二 おしち》慶応3年(1867)、アメリカ議会図書館蔵 ある歌舞伎役者がこの絵のような振袖でお七を演じたことから、麻の葉模様が流行した。 喜多川歌麿《青楼十二時 続 寅ノ刻》寛政6年(1794)頃、東京国立博物館蔵 夜明けが近い寅ノ刻(午前3時~5時)に、火鉢の前で語らう遊女を描いた作品。遊女の着物は部屋着で、左側の女性の着物は麻の葉模様。版元は「べらぼう」の主人公、蔦屋重三郎。 勝川春英《金太郎》18世紀末-19世紀初期頃、東京国立博物館蔵 当時流行した疱瘡(天然痘)除けの絵。強い生命力を持つ麻の葉の柄の腹掛けをした金太郎が持ち上げているのは、おもちゃのミミズク。ミミズクや達磨には疱瘡除けのご利益があるとされた。 歌川国芳《縞揃女弁慶 暦を見る美人》(左)天保15年(1844)、都立中央図書館蔵 歌川国芳《縞揃女弁慶 安宅の松》(右)天保15年(1844)、都立中央図書館蔵 歌川国芳が弁慶縞の着物の女性を描いた連作「縞揃女弁慶」の2作。弁慶縞とは縦横に同じ太さの縞模様を組み合わせた格子柄で、名前は歌舞伎「勧進帳」の弁慶の衣装に由来。上は暦を見る美人、下は子どもに寿司を食べさせる若い女性。 喜多川歌麿《青楼十二時 続 卯ノ刻》 寛政6年(1794)頃、太田記念美術館蔵 遊女が手にしているのは、明け方(卯ノ刻)に帰ろうとする客の羽織。羽裏に達磨が描かれ、落款もあることから、この客が凝った羽織を着た洒落者であることが窺える。表は地味でも裏は派手で大胆な羽織は、いかにも江戸好み。 「星のや東京」の客室のランプシェードは、遠目からは幾何学模様に見えるが、実は矢絣。近づいて初めて気づくさりげなさが粋。 建物の外壁を覆う金属製の装飾は、麻の葉模様を変化させた「麻の葉くずし」。オフィス街になじみつつ、さりげなく江戸の趣を漂わせている。 正面玄関の廊下。隣り合う畳の「目」の方向を変えて敷くことで市松模様を表している。正方形の靴箱を積み重ねた壁にも調和したデザイン。 スタッフが着ているグレーの制服の裏地は、伝統的な宝尽くし模様。袖口を折り返すと鮮やかな裏地が現れる。江戸の洒落っ気が心にくい。 星のや京都。 星のや竹富島。