後半戦に突入したNHK連続テレビ小説『あんぱん』。舞台は戦後となり、主人公・のぶ(今田美桜)が入社した高知新報で、のぶと一緒に働くことになる女性記者・小田琴子を演じているのが鳴海唯だ。

 サザエさん風のヘアスタイルとスーツ姿がトレードマーク。普段は淑やかにそつなく仕事をこなしつつ、実は酒豪で夜ごとカストリをあおりながら「新聞社には、夫を探しに来た」と放言してのぶを驚かせる。

 琴子は戦後の復興期の自由さと明るさを体現するようなキャラクターだ。恋愛に関してとことん鈍いのぶと、とことんシャイな嵩(北村匠海)のことを気にかけており、やがて夫婦になる二人が結ばれる上でキーパーソンになるのではないかと予想される。

 琴子を演じる鳴海唯には、本作のオーディションにまつわる有名な逸話がある。

「アンパンマンのような人になりたい」

 それはこんなエピソードだ。朝ドラのヒロインオーディションに臨んだ鳴海は、オーディションシートの自由欄に「私はアンパンマンのような人になりたいです」と自分の思いを綴った。この時点では、まだオーディションを受ける人たちに作品の内容は知らされていない。制作統括の倉崎憲氏は情報漏洩を疑ったが、実はまったくの偶然だった。

「マネジャーさんとどういう人になっていきたいかと話していた中で『愛と勇気を共有できる人になりたい』と言っていて。どんな人だろうと考える中で出たのがアンパンマンみたいな人かなと。それがご縁につながりました」(日刊スポーツ 2025年6月30日)

 自分が受けているオーディションが『アンパンマン』の作者、やなせたかし夫妻をモデルにした作品だと知った鳴海は、最終オーディションの際は涙ながらに「人生を変えたいです」と語ったという。その結果、ヒロインの座は逃したものの、琴子役を射止めることになった。

 透明感があって、自然体で、親近感がある。これまでの鳴海唯のキャリアを見ていると、そんな感想が浮かんでくる。

2025.08.01(金)
文=大山くまお