ファンだった広瀬すずの作品に関わり…「いきなり大学を辞めて」

 東京に行けば芸能に携われるかもしれないと考え、東京の大学をいくつか受験したものの全部失敗。舞台美術を学ぶ関西の大学へ進んだが、まったくやりたいことではなかった。

 そんな折、鳴海に大きな転機が訪れる。大学1年の頃、近くでロケをしていた映画『ちはやふる-結び-』(2018年)のエキストラ募集を見つけ、迷わず応募した。そこで目の当たりにしたのが、高校時代から握手会に行くほどファンだった広瀬すずの姿だった。10代の頃、悩みに悩んでくすぶっていた気持ちが一気に解き放たれる。

「同世代の俳優さんたちが現場ですごい堂々とお芝居しているのを見たら、『ここにいたらダメだ!』って一気に沸騰してしまったんです。ストッパーが外れたみたいにいきなり大学を辞めて、東京でお芝居の勉強を始めました」(週プレNEWS 同前)

 溜めに溜めていた情熱がスパークした鳴海は、エキストラ撮影の最中に東京の芸能事務所を調べ、大学を中退して上京。演技の養成所に入る。そこでオーディションを受けて合格したのが、朝ドラ『なつぞら』(2019年)である。主演は広瀬すず。鳴海は主人公を引き取った家の妹役だった。握手会、エキストラに続く、3度目の出会いである。なお、広瀬は鳴海と同じ年であり、誕生日は鳴海が1か月早い。

「女優に向いていないんだろうな」

 子役経験もなく、学生時代も演技経験はなかったため、19歳からのスタートは「遅いのではないか」と不安に駆られたが、とにかく憧れの世界に飛び込んだ。

 上京したばかりの頃は「(女優に)向いていないんだろうな」と思うこともあった。プロの現場に入って憧れの俳優たちと一緒に仕事をするものの、自分の無知と無力さを思い知らされる日々が続いた。キャリアを重ねた現在も「自信は正直、今もないです」と語る(smart Web 2025年7月4日)。

 それでも壁を一つひとつ乗り越えていった。映画『偽りのないhappy end』(2021年)では初主演を務め、『あんぱん』でも共演している河合優実の姉役を演じている。村上春樹原作のオムニバスドラマ『地震のあとで』(2025年)でも第2話の主演に抜擢され、同郷の大先輩・堤真一と共演した。

『あんぱん』のオーディションで新しいキャリアを求めて「人生を変えたい」と訴えたのは、彼女のがむしゃらな姿勢の現れだろう。

2025.08.01(金)
文=大山くまお