2024年のNHK連続テレビ小説「虎に翼」に主人公・寅子の娘である佐田優未役で出演、先日は2026年に公開される映画『うるさいこの音の全部』主演を務めることが発表されるなど、注目を集める川床明日香さん。

 旅が好き、と語る川床さんですが、海外への留学経験はあるものの、一人旅は(ほぼ)初めて。そんな彼女が新潟県へ初のソロトリップへ出かけてきました。荷物に忍ばせたのは1台の「写ルンです」。27枚のフィルムは、川床明日香の視線は、どんな風景を刻んできたのか。エッセイとともに振り返ります。

》川床明日香さんが撮影してきた新潟の風景を一覧で見る。


(ほぼ)初の一人旅のため、新潟へ

 旅ってどこからが旅というのだろう。家を出た瞬間なのか、現地に着いた瞬間なのか。そんなことを考えながら電車に揺られていた。

 新潟に訪れるのはこれで2回目。一度目は3年前のフジロックだが苗場スキー場しか満喫できていなかったので、新潟市を旅するのは今回が初めてだ。

 そして今回(ほぼ)初めての一人旅だ。ほぼというのは今年の5月に1人でオーストラリア留学に行ったことを一人旅に含めてしまえば今回の旅は2回目となる。しかしあくまで留学だったので(ほぼ)初めての一人旅ということにしている。とにかく、前々から一人旅に行ってみたいなぁと思っていたところ今回のお話をいただいた。これまでなぜ踏み出せなかったかというと、普段一人暮らしなのに、旅に出てもまた一人でいるのはどうなんだろうなんて暗いことを考えていたからだ。でもこの企画のお話を聞いて「行きたいです」と即答できるくらいに私は一人旅に憧れていた。

 新幹線が発車する30分前に着くように家を出る。東京駅までの電車は通勤時間帯だからか満員だ。眠気覚ましにアイスラテを買い、新幹線に乗車。新潟には11時29分に着く。

 事前にSNSとGoogleを駆使していろいろ調べてみると新潟県がかなり広いことがわかった。今回は新潟駅周辺と宿に選んだ月岡温泉の二つに絞って回ることとなりそうだ。ちなみに旅をする時は行きたいお店を何個か保存して、その時の気分で行きたいお店をピックアップするゆるゆる計画派である。今回もその手法で旅をさせていただく。

 新幹線に乗り、益田ミリさんの『47都道府県女ひとりで行ってみよう』を読むことにする。この“ひとりでシリーズ”が好きで何冊か読んでいたこともあって、一人旅への欲求が潜在的にあったのだと思う。本の中で、益田さんは観光案内所でパンフレットやチラシをもらっていたので私もマネすることとした。本を読んだり、音楽を聴いたりしているうちに2時間があっという間に経った。

 初めて降り立った新潟駅は綺麗な建物。最近できたばかりなのだろう、駅周辺はまだ工事中だった。人はそんなに多くはないが、少なくもなく、心地がよかった。早速、“益田先生”を参考にし観光案内所にてパンフレットをいくつかゲットする。

 昼ご飯に、テレビで見たことがあったバスセンターのカレーを食べようと歩くこととするが、東京と同じくらいの暑さがじりじりと感じられる。バスセンターまで行く途中でへぎそばの看板が目に入った。バスセンターまではまだ8分かかると地図が教えてくれる。私の心はカレーからざるそばへと瞬時に移り、観光客の人たちとお昼休みのサラリーマンの方たちと共に「須坂屋」に並んだ。

 5分ほど並び案内された店内には芸能人のサインがずらりと並んでいた。おかみさんにおすすめを聞いたらやはりへぎそばと言われたので、1.5人前と書かれていたが注文。食べられるのかという一抹の不安を抱く。須坂屋のお蕎麦はつなぎにフノリという海藻を使っているらしく、食感が軽くツルッとしていた。そばというよりもそうめんに近いような気もした。美味しい。10分もしないうちに完食してしまった。恐ろしやへぎそば。

 今回泊まる宿は新潟駅からバスで1時間ほどの月岡温泉の旅館だ。新潟駅から行きやすい温泉地を探していたところヒットしたのがここだった。13時に新潟駅発のシャトルバスがあったためそれに乗ることにする(ちなみにシャトルバスの本数は多くはないために事前に調べておくことをおすすめします)。

 シャトルバスは現金のみ1,500円。あいにく私の手持ちは10,000円。両替はできない。どこかで崩せるとこがないかバスの前でオロオロしているとバスの運転手さん(?)が500円ならあるよと言ってくれた。優しい!! 涙ほろりと言いたいところだが、私の財布には10,000円しか入ってないのだ。ごめん、、運転手さん、、、おじさんに感謝を告げ、近くのコンビニで1,500円をゲットするためのグミを購入。こういうところで現金は必要なんだよなと思う。バスには意外とお客さんがいて、平日にも関わらず、7割ほど席が埋まっていた。

 まだ新潟に着いて2時間ほどしかたっていないのだが、苦しい。誰かと喋りたい。家族の中ではよく喋ることからラジオDJと呼ばれている私だ。めちゃめちゃ喋りたくてうずうずしていた。残念ながらバスにひとりで乗っているのは私くらいだったため話しかけることもできず、寂しさが募った。このメモに話しかけるように文字を綴っていこうと思った(そしたら5000字を超えるメモとなった。これをまとめることができるのだろうか)。

 ふと顔を上げると、窓の外には田んぼが広がっていた。稲穂が風に吹かれて揺れているのを見ると、なぜだかほっとした。空が広い。息が深くできる気がする。

 外の景色に見とれているとあっという間に月岡温泉に着いた。

 月岡温泉街は30分もあれば端から端まで周れるほどコンパクトであるにもかかわらず、せんべいのお店、足湯、ワイン、日本酒など様々なお店がある。私はすぐにここが気に入った。一人旅初心者にとってやさしい町だと思った。

 泊まる宿にカバンを預けて「新潟甘味 premium WAGASHI 和NAGOMI」に入る。和菓子の売店に加えカフェも併設されていて「浮き星」というお茶に浮かべて楽しむカラフルな金平糖のような新潟ならではのお菓子などが売られていた。私は和菓子付きの抹茶体験500円を頼み、お店奥のちょっとしたカフェスペースに座った。店内には本格的な茶釜が用意され、セルフでお茶を点てる。

 お茶の点て方が分からなかったためユーチューブで調べ、見様見真似で点てた。甘い練り切りとお茶の苦みがちょうどいい。その後、日本酒のテイスティングができるという「新潟地酒 premium SAKE 蔵」へ。おはじき3枚600円を購入し、100種類の日本酒から好きなものを3杯選んで飲むシステムだ。私はおちょこ2杯分を飲み、ほろ酔い気分に。

 チェックインできる時間になり、お部屋へ。お部屋がある三階までエレベータ―を使ったのだが、それが見たことないほど昔の型で、止まってしまったらどうするんやろ、、、(失礼)と思った。上り下りは階段を使うことにした。今回泊まる部屋は「湯あそび宿 曙」。部屋に入ると10畳ほどのたたみにお布団が敷かれていた。ちょうど良いサイズ。安心して1時間ほどお昼寝してしまった。

 普段生活していると予定を詰め込み過ぎてしまう癖がある。何もしていない自分が嫌になる。でもこの日の私は何もしなくてもいい自分を許せた気がした。都会の喧騒から離れるというのはその騒音や、人の多さだけでなく、流れゆく時間に身を任せることを許すということも意味しているのだと思った。

2025.10.04(土)
文・写真=川床明日香