夜な夜なマンガに夢中になる大人が急増する中、2022年に誕生した「CREA夜ふかしマンガ大賞」。眠りにつく前の自分だけのひとときに、ページをめくりながら癒され、息を呑み、泣いて笑って──。第4回となる今年も、日常のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる名作が揃いました!

 今回は、マンガ家さんと二人三脚で数々の名作・ヒット作を生み出してきたマンガ編集者の方々に選考委員を務めていただきました。「夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品」「人生で思わず夜ふかしして読んだ作品」「マンガを読むときのマイルール」など、マンガ好き必読のアンケートです。


薗部真一さんが「夜ふかしマンガ大賞に推薦するマンガ」

◆『半分姉妹』藤見よいこ/リイド社

 「姉ちゃん、俺、改名したけん。」フランス人の父と日本人の母を持つ〈米山和美マンダンダ〉は、弟から突然の告白を受ける。生まれ育ったはずの日本で「異物」と見なされても、笑って流していたけれど……。アイデンティティに揺れるすべての人へおくる、共生を模索する希望の物語。

「第2話では、日本人の父と中国人の母の間に生まれた娘が、日本にも中国間でどちらにも帰属しきれないさびしさを抱いて暮らしている。母親にすら理解されなかった感覚。だって母には、帰属意識を持てる彼女の生まれた国=中国があるから。

 会話のなかにふいに放り込まれる『なーんで友達の彼氏って一人残らずゴミなのかな?』なんて、深夜の女子会ノリの軽妙な言葉を交えながら、そんなシビアな感覚を読ませる。お説教っぽく見えがちなテーマの扱いが、当事者ならではのバランス感でむしろ楽しくなる不思議な体験だ」

◆『言葉の獣』鯨庭/リイド社

「主人公は、国語の教師から『がんばって』という言葉をかけられ、違和感とほのかな怒りを抱く。本作はそんな彼女が、言葉が動物の形をとって見えている同級生とともに、言葉の本質のようなものを獣にたとえながら探っていく物語だ(と思う)。

 個人的なことだけど、僕は幼い頃、末期がんの祖母の病室を去るときに『がんばって』という声をかけたことがある。その時の彼女の寂しそうな顔が、妙に気になり、記憶に残っていた。本作は、『がんばって』が『応援』の言葉であるとともに、本質的に『あなたを助けられない』という意味を持つと語る。ずっと心に残っていた祖母のあの表情の正体をつかめた気がした」

◆『元気でいてね』藤原ハル/KADOKAWA

「『私たちは何に許されたいんだろうね』。子どもをつくる選択、つくらない選択、好きな仕事にすべてを注ぐ選択、子どもを産んで育てていく選択……みんながそれぞれしてきた選択には必ず、その場所なりの苦しみがある。そんな選択をどうやって肯定すればいいのか、考える時間をくれるよい作品だった」

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