
編集部注目の書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回は、月から地球へやってきた女の子の1年間の物語を紡いだ歌集『笑っちゃうほど遠くって、光っちゃうほど近かった』の著者、初谷むいさん。季節の移り変わりや、なくても困らないものの大切さを教えてくれて、何よりいつもそばにいてくれる、“大事な友だち”について教えてくださいました。
コンビニが好きだ。コンビニに行くと、生きている感じがすごくする。わたしの生活はなんだかんだで忙しく、でも似たような感じの日々で、毎日やることをやって寝てやることをやって寝てやることをやって……を繰り返していたらあっというまに季節が入れ替わっていて、好きな友達とかもなんとなく変わったりして、でもそのことにはなんかすこし時間が経たないと気づかなくて。とにかく簡単に言うとこころが毎日に圧迫されていて、あんまり息ができていない感じがする。
そこで、コンビニだ。コンビニの好きなところはいくつもあるけれど、まず、「ちいさい」ことがとてもうれしい。ちいさな箱の中に、みっちりと楽しいものが詰まっている。空間には限度があるため、わたしはだいたい全部の商品としっかり向き合うことができる。大きなスーパーマーケットも好きなのだけど、疲れているとその選択肢の多さに立ち尽くしてしまうのだ。その点、コンビニでする決断は簡単。スーパーマーケットでする選択が記述式だとすると、コンビニでする選択は、四択くらいの体感がある。それは、好きな理由のまたひとつである、「期間限定商品の多さ」に関係してくると思っている。
コンビニには、明確な期間限定商品が多い。というか、ほぼすべてが期間限定商品だ。しばらくすると、どんなにお気に入りの商品でもたいていお店から消えてしまう。わたしはそんな期間限定商品のはかなさが大好きだ。期間限定の、変わったコンセプトのグミのかがやきは、ほかの何にも再現できない。チンすると汁物に変身するおかずのモツ煮はなんと期間限定なだけでなく、わたしの住んでいる北海道限定だった。いなくなるまえからお別れの予感がする。またいつか会えるだろうか、と思いながら、どきどきとコンビニに通い詰める。ある日から、グミもモツ煮もいなくなっている。コンビニにはあたらしい顔がすこしそわそわと並んでいて、みんなそこにわたしの大切なグミやモツ煮があったことはすっかり忘れている。ここに、いるのに。ここに、まだその子たちを食べたいわたしがいるのに……。と思うが、わたしも単純で、新商品にすぐめろめろになってしまうのだ。そんな感じで、明確に好きな(あるいは、好きになれそうな)ものが目に入りやすく、しかもそれが一時期しか出会えないとなると絶対に欲しく、選択は簡単になっていく。
期間限定のものが多いということは、季節に合わせた商品も多いということだ。夏には冷やし中華が並んで、秋にはかぼちゃプリンが並ぶ。毎日にギュッと押しつぶされているわたしは、季節がわからない。わからないというより、感じる余裕みたいなものがない。ほんとは季節をしっかり楽しむ人になりたかったのに、気づけば夏が、秋が、冬が、そして春が終わっていて、終わってからようやくその季節の中にいたことに気づけるのだ。あついなー、さむいなーではなく、ほんとはもっと季節を楽しみたいし、季節を愛したい。人間が、気候に対してたいせつに作ってきた概念とそれに関連するものごとをもっとおもしろがりたい。でもそれはわたしにとって、意外とむずかしい。でも! コンビニに行くと、季節がわかる。どう楽しんだらいいのかも教えてくれる。冷やし中華を食べて、かぼちゃプリンを食べる。食べている間、わたしはすこし季節のまんなかにいる。
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- 文=初谷むい
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