コンビニはほんとうに大事な友だちなんです
それからそれから。コンビニにあるのはおいしいものだけではない。わたしたちの生活をもっと明るくするものもてんこもりだ。ひとりひとつまでのポケモンカードパック、さまざまな作品の一番くじ、サンリオのキャラクターのちいさな鏡……。思い出す。冬の日に、アイスを三つ買えばもらえる好きなアニメのクリアファイルをもらいに行ったことを。冷えた手で、もっと冷たいアイスを触ったこと。クリアファイルは三種類あってちょっと迷ったこと。あのときわたしはとにかくめちゃくちゃ楽しかったのだ。なくたって困らないものこそ、わたしたちには必要だ。あなただって、本当はいなくたって、困らない。それでもそばにいるのはやっぱりあなたがいた方が楽しいからだ。コンビニは、あたりまえのあたりまえさに気づかせてくれる!
簡単に選べ、簡単に別れ、簡単にそばにいて、簡単に楽しい。コンビニの簡単さに、わたしは長いあいだ、ずいぶん救われてきた。その簡単さを、なんとなくよく思わない人もいると思う。けれど、わたしはコンビニという場所の簡単なやさしさがほんとうにうれしいのだ。ほかほかの塩おにぎりをにぎりしめて帰るとき、わたしはたしかにひとりではなかった。たったひとつきりのおにぎりだったけれど、お金を出したら一瞬でわたしのところに来てくれたのだ。しかもあたたかかったのだ。きっとすぐに忘れてしまう、現にいまコンビニの話をするまでは忘れていた、ひとときのこと。でもたしかにあのとき、そして今も、コンビニはわたしの友だちなのだった。たとえば旅行で、普段の町を離れても、コンビニだけはわたしに親しげだ。なんというか、友だちの友だちなのだ。その地域性を反映した商品が並んではいるものの、いつものコンビニと似ているところも当然あって、あなたの友だちはわたしの友だちで、いつもお世話になってます、という気分になる。
そんなことを考えていると、コンビニはほんとうに大事な友だちなんです、と気持ちが加速してくる。わたしは明日もコンビニに行くだろう。最近はわかめとあさりの入ったカップラーメンにはまっていて、この商品はあまりにおいしかったので再販に再販が繰り返され、今はなんとなくいつでも手に入る感じになっているが、わたしは別れを恐れない。コンビニがある限り、出会いと別れは繰り返されるだろうけれど、コンビニはいつだってそばにいてくれるはずだ、と思うのだ。
初谷むい(はつたに・むい)
1996年生まれ、北海道在住。第一歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』、第二歌集『わたしの嫌いな桃源郷』(ともに書肆侃侃房)、第三歌集『笑っちゃうほど遠くって、光っちゃうほど近かった』(ナナロク社)。共著に『スペース短歌』(時事通信社)。短歌ユニット「イルカーン」のメンバー。
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DIARIES
編集部が注目している書き手による単発エッセイ連載です。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
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- 文=初谷むい
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