
編集部注目の書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回は、ささやかだけれど確かな温かみのある生活を綴った文章や短歌でおなじみ、寺井奈緒美さん。改めて考える、愛すべき喫茶文化「モーニング」の魅力とは? 今すぐなじみの喫茶店やファミレスに足を運びたくなります!
珍しく早起きができた日には、朝活と称してモーニングに行く。手帳にやりたい事や行きたい場所のリストを書いたり、一週間を振り返ったり。普段寝ている時間に1ターン行動が増えるだけで意識がぐんぐん高くなり、建設的なアイデアが浮かぶ気がするのだ。
「モーニング」といえば、愛知県出身の私にとっては朝の時間帯にドリンクを注文するとトーストとゆで卵が無料で付いてくる愛すべき喫茶文化のこと。店によってはトーストがサンドイッチになっている場合やパスタサラダや果物、ヨーグルト、市販のヤクルトや柿の種の小袋などが添えられているときもある。
愛知が発祥の地と言われているが、繊維産業が盛んだった愛知県一宮市で、商談などで朝から集まる常連のためにコーヒーにピーナツやゆで卵を付けたのが始まりという説、豊橋市で従業員のまかないだったパンを提供するようになった説、東京や広島市発祥説など複数の説がある。
いずれにしても、朝からコーヒーを飲んで胃が痛くなったりしないかしら、朝ごはんちゃんと食べているのかしら、と心配する老婆心からの行動なのではないかと想像する。すっかりシステム化された今でも、その善なる心に魅力を感じるのである。
なので、インスタグラムで流れてくるキラキラしたニューヨーク風カフェの「フレンチトーストプレート¥2,200」「ヨーグルト&グラノーラボウル¥1,600」というメニューを見て、おいおいおい! 善意は!? と思わずツッコんでしまう。もし誰かが食べに行きませんかと誘ってくれたら思い出作りだと思って唇を噛みしめながら行くだろう。正直「エッグベネディクト」なるものも一度は食べてみたい。
しかし、愛知に甘やかされてきたせいで強気のニューヨークスタイルにはどうも気後れしてしまう。ヨーグルトなんてスーパーのプライベートブランドのやつにいちごジャムをぺっと落としてくれただけで十分ありがたい。モーニングはお洒落な「プレート」というよりは、皿の上に善意が混沌と盛られている状態が美しいと思うのだ。
2025.09.23(火)
文=寺井奈緒美