編集部注目の書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回は『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』で衝撃的なデビューを果たした済東鉄腸さん。「趣味は東京メトロ1日乗車券を使って東京メトロ圏内のチョコザップをめぐること」だという済東さんは、気軽にチョコザップに通ううち、深い深い“愛”にたどり着きます。

 チョコザップ、あまりにも革命的!

 脱引きこもりを数年続けている俺にとっては、そう叫びたいほどチョコザップは有難い存在だ。俺は体育の授業が本当に苦手で、坊主憎けりゃ何とやらとばかり運動すらキライになってた。さらに体育も上手くこなせない自分の肉体までキライになる。これはマジ邪魔でしかない「モノ」で、自由なる魂にとっての監獄くらいに思ってたよ。

 だけどチョコザップで気軽に運動ができるようになって、ちょっとした筋トレや運動ってここまで楽しいのかという大発見があった。筋肉がちょこっと鍛えられる、体力がちょこっと増える、このちょこっとってなかなか達成感がある。

 最近は執筆仕事が終わった後にチョコザップに行って、ランニングマシンで走ることすら始めた。走るのってこんな気持ちよかったんかよ!

 こうして俺の運動への姿勢は完全に変わった。これを革命と言わないで何て言えばいい?

 ところでチョコザップは無人ジムだから、経費削減で清掃員が時々しか来ない。だからマシンは使ったら自分で清掃しなきゃいけない。使うたびに備えつけの布巾とスプレーで自分で洗浄するわけだ。

 引きこもりあるある、掃除をあんまりしないしそもそも苦手、さらにやったとしても自分の部屋や家は手を抜きがち!

 だがジムのマシンに関しちゃこれは公共物、他の人も使う。というか使った直後に別の人が使い始めるなんてよくある。

 赤の他人の目があると、引きこもり気質の俺だけどもその清掃は自然と丁寧にならざるを得ない。

「除菌」とパッケージにドデカく書いてあるスプレーで、例えばランニングマシンに洗剤を拭きかけ、青い布巾でマシンを拭いていく。

 傾斜や速度を変えるプラスチック製のボタン。

 スマホやタブレットを置く用のちょっとした台。

 掴むと手のひらの脈から心拍数を計測してくれるバー。

 こういうのを拭いてると、心拍数の上がった心臓や吹き出す汗が自然と落ち着いていくような感覚がある。そうやってマシンを綺麗にした後に外へ出ると、夏の暑さは夜でも収まってないのに爽やかさを覚える。冬の寒さすらも気持ちよくて、自然からの贈り物に思えてくる。

 筋トレや運動も重要だ。でも四季の移り変わりの中で、この拭き掃除も重要なものになっていった。

 こういう風に掃除を続けていると気づくことがある。経費削減で布巾もかなり薄いわけだけど、虚心坦懐に拭き掃除をこなし続けていると布巾の存在が消えて、まるで素手でマシンを拭いているような感覚になる。

 それは不思議と不快じゃあない。それこそ大切な人、大切なものを優しく撫でているような感覚にも繋がっていくんだ。

 で、これを日々繰り返しているとマシン自体に愛着を抱き始めるというかね。

 通ってるジムに、ランニングマシンは3台ある。入口の左側には電光掲示板のついた窓があるんだけど、それと向き合うようにマシンが2台並んでる。そのうち右側のランニングマシンで俺はいつも走る。

 こっちを選んだのは何となくでしかなかったけど、使い続けるうち自分を鍛えてくれる筋トレマシンが自分の体と重なりあい、そして一体化し始めるんだ。まあちょっとの間だけだけどね。

 そして終わったら、最後にマシンをゆっくりと、撫でるように拭いていく……

2025.10.15(水)
文=済東鉄腸