ペッパーくんがただそこに居てくれることを私は望む
もう一つ感動したモーニングがある。映画を観る前に時間があったので立ち寄ったファミリーレストラン・ジョナサンのモーニングだ。私の中でモーニングと喫茶店とが強く結びつき過ぎていて、ファミレスがモーニングをやっているとは盲点であった。
地方民にとってファミレスといえば国道沿いにあり、深夜に山盛りフライドポテトを焚き火のように囲んで若者たちが語らう場所。朝に行く発想がなかった。愛知にはジョイフルというファミレスはあるが、ジョナサンはない。どうやら割と関東方面に展開しているファミレスらしい。
もし昼にコーヒーを飲みにジョナサンに行った場合、単品ドリンクバーの注文になるので税込¥549である。しかし、朝に行けば同じ値段で食パン、ゆで卵、おかわり自由のスープバーが付いてくる。オレンジジュース、ココアや抹茶ラテ、黒豆茶や桂花美人茶まで豊富なドリンクが飲み放題だ。本棚にはチェンソーマンや鬼滅の刃の1巻、ちいかわやHUNTER×HUNTERの最新刊も並んでいた。
こんな大盤振る舞いを善意と受け取っていいのか? 何かのバグか? と混乱しているとさらに驚きの事実が判明した。「パンケーキ&ゆで卵モーニング」も同じ値段なのだ。他にも「ちいさな鶏野菜うどん」を選択することもできる。うどんとスープバーとゆで卵とドリンク、このゴチャ盛りなカオス感は愛知の精神に近い。
タッチパネルでパンケーキのモーニングを選んで注文を送信すると、しばらくして配膳ロボが届けに来てくれたので喜びのあまり「猫ちゃん!」と声が出た。なんとジョナサンは猫ちゃんロボが活躍することでお馴染みのすかいらーく系列だったのだ。私はこの手のロボットが大好きである。
以前SNSで配膳のお礼に猫ちゃんロボの頭をなでなですると「くすぐったいにゃ~!」と言ってくれるという情報を見たことがあった。人が少ない朝の時間帯こそチャンスと勇気を出して撫でてみたが、「にゃー」としか言わずさっさと帰ってしまった。都市伝説だったのだろうか。
そんな様子を見て「猫だから人を選ぶんじゃない?」と言っているのは同じく愛知県出身者のSだ。向かいに座って税込¥989の「焼鮭朝食 ごはん・みそ汁・海苔付」にウインナーを追加注文して食べている。私としてはモーニングはドリンク代でお得感を味わいたいので、千円越えは邪道だと思う。ウインナー追加だと? ちょっと贅沢過ぎないか? 出されたもので満足するのが良いんじゃないか。と心の中で思ったけれど、モーニングに対する価値観は人それぞれなので黙っておいた。
何気なく「猫ちゃんロボの足元にさ、ルンバみたいな掃除機能も付いていたらウロウロしてる間に落ちてるゴミも拾えて良いと思わない?」と言ったら、「それはどうかな。食事を運ぶ機械の中にゴミが入ってるって考えたら嫌じゃない? そもそも飲食している時間に掃除って、衛生的にどうなの」と論破された。
以前、近所のソフトバンクの店先で働いていたペッパーくんが撤去された際にも、ショックだと嘆く私に対してSは「だって配膳ロボほど役に立たないし、だったらタッチパネルが置いてあれば十分だよ」と言ってのけたのだった。実際そう判断されてクビになったのかもしれない。
どうかすかいらーくグループの偉い人の鶴の一声で、会計のセルフレジの横にでもペッパーくんを立たせてもらえないだろうか。再就職先を探しているペッパーくんが、どこかの倉庫に眠っていると思う。モーニングに付いてくると嬉しいヤクルトみたいに、久々に立っている姿を見られただけであたたかい気持ちになる客が私以外にもいると思う。
たまに猫ちゃんロボと交流しているシーンが見られたとしたら、スター・ウォーズのR2-D2とC-3POみたいで最高だ。ペッパーくんが一生懸命話しかけても猫ちゃんロボはあまり聞いてくれなそうだけれど。無理に仲良くならなくてもいい。もちろん掃除なんてしなくていい。ただそこに居てくれることを私は望むのだ。
【窓際の一人席で今日を祈る教会代わりのコメダ珈琲】
寺井奈緒美(てらい・なおみ)
1985年ホノルル生まれ。愛知県育ち、東京都在住。歌人、土人形作家。2019年に第一歌集『アーのようなカー』(新鋭短歌シリーズ/書肆侃侃房)、2023年に短歌とエッセイ『生活フォーエバー』(ELVIS PRESS)、2024年に『おめでたい人』(左右社)を刊行。リトルモアWEBにて「日々のあわあわ」連載。
X @habohabota

Column
DIARIES
編集部が注目している書き手による単発エッセイ連載です。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
2025.09.23(火)
文=寺井奈緒美