歌舞伎の名門に生まれ、幼い頃から舞台に立ち続けるなかで、受け継ぐことの重みと、自分自身の表現を築いていくことの両方に誠実に向き合ってきた市川染五郎さん。その佇まいには、若き俳優らしい瑞々しさと同時に、役や芸に対して自ら問い続ける人ならではの真摯さがにじみます。後篇では、共演者の方々の印象やご本人のプライベート、さらに最近ハマっているものについて伺いました。


祖父が演じた『ラ・マンチャの男』は人生における大いなる指針

――共演者の方々についても教えてください。オフィーリア役の當真あみさんは同世代ですね。印象はいかがでしたか?

 とにかく透明感がすごくて驚きました(笑)。凛とした佇まいが印象的です。映像の世界で多くの経験を積まれていますし、舞台は初めてとのことですが、どんな壁も乗り越えていけるような強さを感じました。

 同世代といっても、私は自分で自分を「21歳らしくない21歳」だと思っているので(笑)。いつも自分より年上の方に囲まれて過ごしているので、若い世代の方々とのやり取りは手探りな部分もありますが、これから稽古を通じて、もっと知っていけたらいいなと思っています。

――ガートルード役を演じる、元宝塚花組トップスターの柚香光さんにお会いした印象はいかがでしたか?

 制作発表の際にご一緒し、少しお話しさせていただきました。やはり男役を極められた方なので、お会いする前は「強い」イメージを持っていたのですが、実際にお話ししてみると非常に柔らかな方で。宝塚の舞台で放つ圧倒的なパワーと、素の穏やかな佇まいとのギャップがとても新鮮でした。

――お二人ともストレートプレイは初めてとのことですが、どのようなお話をされましたか。

 時間は限られていましたが、「セリフはどうやって覚えていますか?」といったお仕事の話から、好きなアーティストのことまで、リラックスしてお話しできました。

 私は以前『朧の森に棲む鬼』という作品に出演したのですが、柚香さんも劇団☆新感線の作品に出演されていたので、その舞台もぜひ拝見したかったな、と思っています。

――白鸚さんも幸四郎さんも外部作品に多く出演されていますが、染五郎さんが最も影響を受けた作品は何ですか?

 歌舞伎以外では、やはり『ラ・マンチャの男』です。物語はもちろんですが、セリフの一つひとつが役者としてだけでなく、私自身が「人間として生きる指針」にしている言葉で溢れているんです。

「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生にただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ」

 このセリフは作品を象徴する言葉だと思います。「現実だけを見て歩むのが正しいのか、夢を掲げて走るのが正しいのか」という問いかけは、今の自分にも深く刺さります。

 現実を見つめることも大切ですが、自分を信じて大きな夢を追うことの尊さを、この作品を観るたびに教わります。人生の節目節目で観てきましたが、そのたびに新しい発見がありました。上演はファイナルを迎えましたが、これからも作品の精神は残り続けてほしいと願っています。

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