グローバルボーイズグループ・INIのメンバーとして活躍する、中国浙江省出身の許豊凡さんは、社会にアンテナを高く張ったアイドルのひとり。活動を通して、ステレオタイプなジェンダー観に対する違和感や、プライド月間の啓蒙などを積極的に発信しています。
「男らしさ」への違和感から、大学での学び、そしてアイドルとしてファンと向き合う中で深まっていったジェンダー観まで。当たり前とされてきた社会の構造や価値観に一石を投じる許さんの内面に迫ります。
僕の言葉は生きづらい人を助けるために使いたい

――幼少期のお話から伺います。許さんは現在、ジェンダーバイアスにとらわれない姿勢を示されていますが、ご両親からそういう教育をしっかりと受けられたのでしょうか。
許 そうであればよかったのですが、周りの大人たちはジェンダーに対しては固定観念を持っていて、当時は僕もそれが「当たり前」だという環境で育ちました。ジェンダーについて教えてくれる人もいませんでしたし、昔はそこに対して特に違和感を抱くこともありませんでした。
――過去に「男らしさ」を押し付けられたこともありましたか?
許 ありましたね。小学5年生の時、一度サマーキャンプに参加したことがありました。参加者は男の子だけで、体力やたくましさを鍛える訓練のような授業を受けるんです。
――親御さんに勧められて参加されたのですか?
許 親に言われて渋々参加したのですが、指導もきつかったし、その時は「別に自分は屈強な男になろうとも思ってないし、興味もない」という意識でいました。当時はただただ面倒くさいという感覚でしたね。その頃は特にジェンダーについての知識もなかったし、「男はこうあるべき」という考え方に対しての違和感というよりは、本当に物理的に嫌だった、という気持ちですね。
今考えると、あれはすごくジェンダーバイアスを押し付ける環境だったなと思います。これは中国に限った話ではなく、東アジアに共通する、家父長制に由来する文化だったのかもしれません。
――では、学生時代はずっと「男らしさ」に縛られながら、モヤモヤとした日々を送ってきたのでしょうか?
許 高校に入ってからは変わりました。海外の教育を取り入れた学校に通っていたので、だんだん「男はこうあるべき」というような考えを押し付けてくる人が少なくなっていきました。先生も外国の方が多く、生徒一人ひとりの考えを尊重する自由な校風でした。
2025.09.05(金)
文=綿貫大介
写真=平松市聖
スタイリング=山田莉樹
ヘアメイク=朴ヨンソン(MASTER LIGHTS)
CREA 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。