フェミニズムを学んで世の中の見え方が変わった

――許さんのジェンダー観が変わってきたのはいつからですか?
許 特に変化があったのは、東京の大学に入ってからです。クラスには帰国生をはじめ、多様な人種や国籍の人がいて、考え方が大きく変わりました。その中に、ジェンダーについて積極的に発信している同級生がいたんです。
たとえば学食のランチセットに、量が少なめのものがあったのですが、それが「レディースセット」という名称だったんです。僕は何とも思っていなかったのですが、彼女は「小盛り=女性と結びつけられるのは違うと思う」と発信し、学食に名前を変えてほしいと訴え続けました。すると、実際に名前が変わったんです。それまで気づかなかったことだったので、すごく大きな衝撃を受け、それがきっかけになりました。
また、ジェンダー論の授業を受けたことで、家父長制や社会の構造について学び、フェミニズムという考え方に出会いました。
――フェミニズムを学んで、世界の見え方は変わりましたか。
許 それによって、今まで見えなかったものが見えるようになりました。確実に視野が広がりましたね。「弱者」という言葉はあまり使いたくないですが、女性に限らず、社会的に弱い立場に立たされている方々のことを考えるようになったり、今まで気づかなかった自分の「優位性」に気づくようになったり。
ちょうど僕自身が留学を経験したことも大きかったと思います。自分の国にいるときはマジョリティだったのが、日本に来て今度はマイノリティになった。その二つの経験が重なって、よりいろいろな人の立場に立って考えられるようになりました。
アイドルとして感じるジェンダー格差
――アイドルとして活動する中で、ジェンダーに関する違和感を覚えることはありますか?
許 結構あります。正直なところ、男性アイドルの場合は太ったり痩せたりしてもファンの方々からは「かわいい」と肯定的に捉えてもらえることが多い気がしていて。実は僕もデビューから4年で体重の増減がありましたが、批判的な声はあまり届きませんでした。
太ったときは「ちょっとふっくらしたね、ぷにぷにでかわいい」。痩せたときは「シュッとしていてかっこいい」とか。どちらにしろ、好意的に褒めてもらえることが多かったです。でも、女性アイドルの場合は、体型や容姿のわずかな変化にも、否定的な意見が飛び交ったり非難されているように感じます。
――男性側が女性の容姿や能力、価値をジャッジする立場にあると思い込むのは、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)の典型例の一つですね。
許 そうなんです。さらに、女性アイドルはお腹を出すような露出の多い衣装を着る機会も圧倒的に多く、常に人に見られる肌の面積も広い。それに、これはトレーナーの方から聞いたのですが、女性のほうが男性に比べ痩せにくい体質なのだそうです。身体的な違いがある状況で、単に人の体型や容姿を評価してしまう風潮には、やはり違和感があります。
また、日本の女性アイドルが「グラビアを撮る」という文化にも疑問を感じます。なぜ水着の写真集を出さなければいけないのか。本人の意向ではない場合も多いのでは、と思ってしまいます。
――アイドルの活動期間にも男女で差がありますよね。
許 特に日本は、男性アイドルグループの活動期間が長い傾向にあります。しかし女性アイドルグループのほとんどがそうではない。個人の在籍期間は短く、「卒業」システムによってグループ内に一定のフレッシュさが保たれているケースが多いように思います。女性アイドルに対する「若さ」のプレッシャーは、男性アイドルよりもはるかに大きいのだと感じます。
続きは「CREA」2025年秋号でお読みいただけます。
許 豊凡(しゅう・ふぇんふぁん)
1998年6月12日生まれ。中国浙江省出身。2021年にオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」に出演し、グローバルボーイズグループINIのメンバーとしてデビュー。情報バラエティー番組「DayDay.」(日本テレビ系)ではレギュラー(不定期)としても活躍中。
初のドキュメンタリー映画「INI THE MOVIE『I Need I』」
10月31日(金)全国公開

デビューから現在までの約4年間を映し出したINI初の映画作品。タイトル『I Need I』には、「僕たち(I)があなた(I)と繫がっていく(Network)」というINIの出発点から始まり、約4年間をメンバーとMINIの皆さんとともに過ごしてきた中で、「お互いが必要な存在(Need)」となっていくという想いが込められている。
衣装クレジット
ジャケット 305,800円、パンツ 239,800円、スニーカー 125,400円/マルニ(マルニ ジャパン クライアントサービス)その他/スタイリスト私物
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2025.09.05(金)
文=綿貫大介
写真=平松市聖
スタイリング=山田莉樹
ヘアメイク=朴ヨンソン(MASTER LIGHTS)
CREA 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。