SKE48のSチームリーダーとして活動していた矢方美紀さん。卒業後、小学生の頃から憧れていた声優へと歩み始めた時に乳がんと診断され、左乳房を全摘出しました。現在もホルモン療法を続けながら、声優や舞台へと仕事の幅を広げています。

 「乳房再建はしない」と決めたものの、失った左胸を鏡で直視できず苦しんだ日もあったといいます。変わってしまった自分のからだにどう向き合い、どう受け止めたのでしょうか。


乳房切除は、「生きる」という選択

――乳がんの再発を予防するホルモン療法を始めて7年が過ぎました。最近のご体調はいかがですか?

矢方 最近はだいぶ楽になりました。からだが治療に慣れてきたせいか、治療初期の頃に比べると、副作用によるホットフラッシュやいらいらするなど、更年期障害のような不快な症状も軽減しています。体調の変化にうまく対応できず、無理をしすぎてしまうこともありましたが、いまは、一日に詰め込みすぎず、治療と生活、仕事のバランスをうまく保てるようになりました。

あらためて「再建はしない」と決断した理由

――手術後に、「乳房再建はしないと思う」とおっしゃっていましたよね。いまはどのようにお考えですか?

矢方 実は数年前に、再建を考えたことがありました。再建された方にお話を伺ったりSNSの情報を見たりして、女性として気持ちが揺れ動いたんです。でも、現実的に再建するとなると手術が必要で、手術にはリスクが伴います。実際、知り合いの方から「再建でインプラントを入れたものの、トラブルで再びインプラントを抜く手術を受けた」という話も聞いて、やはり自分は再建しなくていいとあらためて思っています。

――片方の胸がなくなると、好きな温泉にも入りにくくなる、と心配されていました。

矢方 手術直後は他人の目が気になって、湯船に入るギリギリまでからだにタオルを巻いて、お湯に入る瞬間に取るなど、胸を隠そうと意識していました。でも自分が思うほど他人は気にしないものなんですよね。だから最近は温泉に行ってもとくに胸を隠したりせず、普通に湯船に入っています。

 自分のからだを堂々と見せることで、「あの人、もしかしたら乳がんかな」「自分もちゃんと検診に行こう」と意識するきっかけになれたら、という想いもあります。

 温泉に行くとたいてい、鏡や壁などに乳がんの早期発見などを啓発するピンクリボンのシールが貼ってありますが、とくに若い方はあまり興味をもっているように見えません。乳がんは早期発見・早期治療で治る可能性が高いので、私のからだを目にすることで、検診に興味をもってくれたらいいなと思ったりもしています。

――ご自分のからだを受け入れておられるのですね。

矢方 もちろん、胸が片方なくなった時はショックでした。元々外見が重視されるアイドルとして活動していたので、胸を失ったことで、女性として何かが欠けてしまったような、そんな強迫観念を抱いていたのだと思います。

 でも、私のまわりにいる乳がん経験者は、胸を片方失っても自分らしく生きている方ばかりです。それに、普段は洋服を着ているので、胸があってもなくても変わりません。いまはとくに外見で人を評価しない風潮になっていますし、好きなお仕事ができて自分らしくいられれば、「胸」はどうしても必要なものではないと納得できています。

2025.10.21(火)
文=相澤洋美
写真提供=矢方美紀

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