この記事の連載

紹介する怪談はほぼ全て「青空怪談」。リスナーたちによる怪談のリライト文化を生んだことでも話題の怪談語りチャンネル『禍話(まがばなし)』。2016年の放送開始以来、ホラー好きたちを唸らせつづけ、コミカライズや特別ドラマ化も果たしたのは記憶に新しいです。
そんな『禍話』から今回は、とあるきっかけで地元に帰省した青年が耳にした“奇妙な会社”にまつわるおぞましいお話をご紹介――。
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級友との再会

『今年の夏休みは帰って来られないの?』
母親から届いていたメッセージをSさんはベッドに寄りかかりながら眺めていました。
しきたりや近所への見栄などが優先される窮屈な暮らしに嫌気が差して都心に飛び出した20代。しかし、都会でがむしゃらに働き続けるうちに、Sさんの心には地元への郷愁が芽吹いていたのです。
◆◆◆
それから数日して3日ほどの有給休暇を取得したSさんは、夏の日差しが落ち着き始めた夕方ごろに地元行きの列車に飛び乗りました。
人ごみが徐々に少なくなり、窓の外から高層ビルが姿を消し始めると、次第にどれだけ走っても走った気がしない情報量の少ない懐かしい景色が増えてきました……そんな風に思っていると、1人の男が通路に立ってこちらをジロジロと見ていることに気がつきました。
進行方向に背を向けてボックス席に座っていたのがよくなかったか……とSさんが居心地悪そうに座る姿勢を変えようとしたとき、その男が声をかけてきたのです。
「あ、やっぱそうだわ……マジか。覚えてない? Tだよ」
「……えっと」
「●●小学校の!」
「あ」
突然、思い出した小学生時代の記憶。
いつもクラスの一角でグループを作ってワイワイと騒いでいた同級生のTさんでした。
「やっぱそうやんな!」
2025.08.11(月)
文=むくろ幽介