この記事の連載
高校時代からたまり場にしていた場所

「おーおー、そいやこの道やったな!」
「何年ぶやり? 10年くらいか?」
「そんくらいなるやろな~」
「あ、ごめんごめん、Sはわからんよなぁ~。ここな、うちらと同じ高校やった□#Щ腴ってやつのオヤジが経営してる会社でさ、よう出入りしてたんよ~」
「出入りって……高校ん時から働いとったん?」
「おまえなぁ~……ほんまバカにしてるやろ~? そんなわけないっちゅうねん~! たまり場やって、たまり場ぁ。ゆる~てさ、□#Щ腴がいつも入れてくれててん」
「職場の人らとも顔なじみでな~。部活よりここがうちらの部室みたいなモンやったな」
「マジで最悪な高校生やで、今思たら!」
「あはははは!」
聞きなれない名前について聞き返したい気もしたそうですが、ケラケラと笑っている彼らに水を差したくなかったSさんは、別の話題を振りました。
「なんや、今はもうやってへん感じやけど……潰れてもうたんかな?」
「それがなぁ~、高校卒業する前に潰れてもうてん」
「まぁ、いろいろあってやな~。あそこ買う人もおらんねん」
「そやそや、なんか変なこともいろいろ起きてさ、めっちゃヤバかったやんな……」
「変なことって、なんやねん?」
Sさんの顔をチラッと見た後、Tさんは薄暗い夜道にひっそりと佇む、大きなシャッターと小さな工場が併設された、2階建ての建物を向きながらこう漏らしたそうです。
「従業員が3人くらい首くくってもうてん」

禍話
2025.08.11(月)
文=むくろ幽介