
父・四朗さん70歳、母・典江さん69歳、娘・ヒトミさん40歳の3人暮らしの日常を描いた、益田ミリさんの「沢村さん家」シリーズ。最新刊『沢村さん家のわくわくお買い物』では、日々の晩ごはんのお買い物から、テンションが上がる大きめのお買い物まで、大小問わず、わくわく楽しい〈お買い物〉を通じて、平均年令60歳になった沢村一家の日常の中にある、ささやかな幸せが描かれています。
著者の益田さんに、沢村さん家のお買い物についてと、一家への想いをうかがいました。
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お隣さんみたいな存在の沢村さん一家

――「沢村さん家」シリーズは、父・四朗さんと母・典江さん、娘・ヒトミさんの家族の会話がリアルでやさしくて、「実家」を懐かしく思い出したり、忘れていた小さな幸せを改めて感じたりします。連載も長くなりましたが、どんな想いで沢村さん一家を描かれていますか?
「週刊文春」での連載も500回を迎え、わたしにとって沢村一家はお隣さんみたいな存在です。テーブルを囲み家族揃っての何気ない会話の回もあれば、母と娘、父と娘、夫婦。違った組み合わせがあり、それぞれ個人の想いを吐露する回もある。いろんな角度から物語を編んでいけるので、いつも新鮮な気持ちで机に向かっています。
――季節感を取り入れた漫画もたくさんあるのが、「沢村さん家」シリーズの魅力のひとつ。四朗さんが買ってきたアイスが全部同じ種類で、「えっ? 同じの3個なの?」とヒトミさんがお父さんにボヤく様子は、家族間のあるあるというか、父娘の良好な関係性を感じさせます。
実は、本書の中でこのアイスの漫画(「代わりはない」)がわたし的に一番好きで(笑)。取り上げてくださって嬉しいです。ヒトミさんは会社では中堅どころのしっかり者です。そんなヒトミさんが家に帰るとアイスクリームで小さなわがままを言っている。外では大変なこともあるけれど、こんなふうに素でいられる時間の尊さを描きたいと思いました。
――「歳をとると物欲がなくなる」なんて話がありますが、70歳の四朗さんも、69歳の典江さんも、一人娘のヒトミさんも、みんなが買い物を楽しんでいますね。
沢村一家が大きな買い物をするシーンはないのですが、中華のおせちを注文したり、季節の花を買ったり、付録付きの雑誌を買ったりと、日々の買い物でささやかな楽しみを味わっています。ヒトミさんがお取寄せで冷凍パンを注文したのを知り、母・典江さんが「なんでわざわざ九州からお取寄せするのよ」と呆れる回があります。しかし、ヒトミさんの胸の内は、遠く離れた街のパンを買うことで、別の街に生まれ育った「わたし」を想像して楽しんでいる。買い物にはファンタジーもあるのかもしれません。
2025.09.26(金)
文=ライフスタイル出版部