何気ない出来事や気持ちを、忘れないように残すこと

――四朗さんと典江さんが二人で買い物に出かけて、意外な色のセーターを四朗さんが選んだ時の典江さんの発見、この世代の夫婦によくあることかも……と思いました。

 わたしの父が定年後、急にジーパンをはきだしたんです。ファッションに興味のない人だったので「えっ」と思ったのですが、はいてみたかったんだと思います。生前の父のことを思い出して、漫画にしました。

――「沢村さん家」シリーズはこれからも続いていきます。これから描いてみたい家族のシーンはありますか?

 沢村一家は歳を取りません。ずっと変わらない世界がそばにあることで、わたし自身も安らぎを感じることがあります。父を亡くした時、特にそんなふうに思いました。新しい世界を取り入れつつも、これからも変わらない一家を描いていきたいです。

――「沢村さん家」シリーズは家族の中の誰もが主役で、普通の暮らしの中で、目立たないけれど、時間が経ったときにとても愛おしくなる場面が詰まった作品だと思います。作者として「ここに注目して読んでほしい!」みたいなことが何かあれば聞かせてください。

 沢村さん家シリーズは、家族の漫画であると同時に、ヒトミさん、典江さん、四朗さんの個人の物語でもあります。図書館の帰り道、四朗さんは「自分を駒(将棋の)にたとえるならなんだろうか?」と考える。飛車や角のように豪快な役目ではないかもしれない。けれど「いらぬ駒など一つもなかろう」とつぶやいて家路につきます。月日の流れとともに感じ方が変わることもあると思います。長く楽しんでいただければ嬉しいです。

益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。
主な著書に漫画『ヒトミさんの恋』(文藝春秋)、『すーちゃん』(幻冬舎)、『僕の姉ちゃん』(マガジンハウス)、『今日の人生』(ミシマ社)、『ランチの時間』(講談社)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『こはる日記』(KADOKAWA)等。エッセイに『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)、『小さいわたし』(ポプラ社)他、多数。『ツユクサナツコの一生』(新潮社)で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

沢村さん家のわくわくお買い物

定年後、図書館やジムに通う父・四朗さん(70歳)、ご近所友達とのおしゃべりがストレス解消の母・典江さん(69歳)、買い物もお取寄せも大好きなベテラン会社員の娘・ヒトミさん(40歳)の3人暮らし。気分が上がる大きな買い物も時にはいいけれど、明日の朝に食べるおいしいパンを選んだり、家族で100円ショップに行って買い物したりするのも楽しい時間。そんなあたたかい家族の日常を描いた大人気ホーム・コミック!
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2025.09.26(金)
文=ライフスタイル出版部