この記事の連載

 “虚実の間(あわい)に魔が見え隠れする”──2016年から生配信サービス「TwitCasting」で恐怖の怪談を語り続けてきたチャンネル『禍話(まがばなし)』。語り手のかぁなっきさんが繰り出す怪談の数々は、日常に非日常の気配を呼び込む傑作ばかりです。

 今回は禍話から背筋が薄ら寒くなるお話をご紹介。会社の先輩から“親族の家を訪ねるのに付き合って欲しい”と頼まれた、とある若いサラリーマンの男性が体験したという恐怖の一夜とは……。(前後篇の後篇)

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辿り着いた住宅街で出会った老人

 ケヤキ並木と街灯が立ち並ぶ平穏そうな郊外住宅地。

 そこに建つKさん宅の駐車スペースに車を停めてから近づくと、玄関はストッパーで止められたまま開きっぱなしで、中からは光が漏れ出ていました。

 異様な状況に戸惑いつつも、Hさんはドア脇のインターホンを押したのです。
 

「Hですー。夜分すみません」

 しかし廊下の向こうから返答はありません。不安を覚えたMさんがふと視線を外すと、そばに立ってこちらを見つめている老人に気がつきました。

「わっ!」

「ここの方のお知り合い?」

「あ、私、親族でして……」。そう言ってMさんの前に歩み出たHさん。

「あー、そうなの。眠れなくて夜風に当たっていたら車が来るのをお見かけしたもので。私その先に住んでいる者です。Kさん、ここ数日ずっとこうして玄関開けているんですよぉ。みんな心配していたところでね……」

「そうなんですか……じゃあ、今家にいないのかなぁ……」

「いや、いると思いますよ。先日も庭で草むしりしていらっしゃったし。でも、奥様の件もあるから心配でねぇ……」

「ご迷惑おかけしております」

「とんでもない。こちらこそ失礼なこと言っちゃったかな。まあ、ここ最近は良い人もできたみたいだから、大したことないとは思うけど」

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介