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開け放たれた玄関の奥には……

「あの、すみません。“良い人もできたみたい”というのはどういう……」

「え? いや、ちょっと前からここに出入り――」

 “コホン”

 開け放たれた玄関の奥から、女性と思しき小さな咳払いが聞こえてきて、一同はその場に凍りついてしまったそうです。

「……誰の靴もなかったですよね?」

「うん……なんだろうな……」

「あー、ないですなぁー……」

「裸足で歩くのがそんなにおかしいですか?」

 振り返ると40代半ばくらいのスウェットを着た細身の男が、パンパンに膨らんだ紙袋を片手に下げて立っていました。

「え、K、Kさん……びっくりした」

 この家の家主であるKさんがいつの間にか背後に立っていたのです。

「裸足で出歩く人もいるでしょ」

 仏頂面で不機嫌そうにそう吐き捨てるKさんは、Hさんが来たことに対してなんの反応も見せなかったそうです。

「じゃあ私はこれで失礼しますねぇ」

 そう言ってそそくさとその場を後にする老人のことなど眼中にない様子で、Kさんは冷たく言いました。

「せっかく来たんだし、上がっていきなよ」

 Kさんは、首をくいっと動かして家の中に入るように促しました。

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介